世界で初めて月に降り立ったビーグル犬

スヌーピーと宇宙とのつながりは、1960年代にまでさかのぼる。

そのころ、すでに米国をはじめ世界中で愛されていたスヌーピーと「ピーナッツ」の仲間たち。そんな折、原作者のチャールズ・M.・シュルツ氏は、米国航空宇宙局(NASA)から、宇宙飛行の安全性を啓蒙するポスターに、「ピーナッツ」のキャラクターであるスヌーピーを使用したいという依頼を受ける。

この背景には、NASA初期の有人宇宙飛行計画「マーキュリー」や「ジェミニ」で数々の問題が発生したこと、そして1967年に悲劇的な「アポロ1」の事故が起きたことがある。そこでNASAは、職員のモチベーションを向上させるため、有人宇宙飛行の"番犬"としてスヌーピーを採用することを考案した。

宇宙開発の熱心な支持者であったシュルツ氏は、そのアイディアに喜んで賛成し、これを快諾。シュルツ氏と、ユナイテッド・フューチャー・シンジケート(ピーナッツの版権元)は、NASAに「アストロノーツスヌーピー」の使用を無償で許可した。

こうして作成されたポスターやアップリケ、カード、バッジなどは、エンジニアや宇宙飛行士など、NASAのスタッフたちの間でも親しまれた。

またシュルツ氏も、「ピーナッツ」のなかで、宇宙や月面を舞台にしたストーリーをいくつか作成し、当時NASAが進めていた、有人月着陸を目指す「アポロ計画」を、安全面でも広報面でも支える存在となったのである。

そして1969年、アポロ計画は月着陸に向けた準備の最終段階に入った。この年の5月、「アポロ10」でいよいよ宇宙飛行士が月まで行って、アポロ宇宙船(司令船)と月着陸船の試験を行うことになった。

NASA、そしてアポロ10に搭乗したトーマス・スタッフォード、ジョン・ヤング、ユージン・サーナンの3人の宇宙飛行士は、安全性への願いと、そして大衆からの親しみやすさを込め、司令船に「チャーリー・ブラウン」、月着陸船に「スヌーピー」というコールサイン(愛称)と命名。さらに、宇宙船にはチャーリー・ブラウンとスヌーピーのイラストが持ち込まれ、カメラの色調整に使用するなど、"準公式マスコット"として大きく活躍した。

アポロ10は無事に成功し、月着陸に向けたリハーサルを完了。その成果を受け、約2か月後の1969年7月20日、「アポロ11」がついに人類初の月面着陸を果たすこととなった。

今年7月20日は、このアポロ11の月面着陸から50周年にあたる。もっとも、アポロ11よりも、さらにアポロ10よりも前の1969年3月、スヌーピーは原作コミックの中で月面着陸を果たしており、「世界で初めて月に降り立ったビーグル犬(FIRST BEAGLE ON THE MOON)」となっている。

  • スヌーピー

    スヌーピーはいまも昔も、NASAの文化に根付いている。写真は、アポロ10に乗り込もうとしているスタッフォード宇宙飛行士が、ジェイミー・フラワーズ氏(ゴードン・クーパー宇宙飛行士の秘書)が持つ、スヌーピーのぬいぐるみの鼻に軽くタッチしているところ (C) NASA

会場では「シルバー・スヌーピー賞」の展示も

NASAとスヌーピーとの関係で、もうひとつ象徴的で、そしていまなお続いている伝統が、「シルバー・スヌーピー賞(Silver Snoopy Award)」である。

シルバー・スヌーピー賞は1968年、前述の安全性の啓蒙や、職員のモチベーション向上の一環として創設。有人宇宙飛行の分野で大きく貢献した人に贈られるもので、純銀製のアストロノーツスヌーピーの形をしたピンバッジが授与されることからその名がついている。

選定や授与はNASAの宇宙飛行士チームによって行われ、ピンバッジも宇宙船に搭載され、実際に宇宙を飛んだものが贈られるというニクい演出がある。

これまでに1万5000人以上に贈られ、日本でも1992年、NASDA(現:JAXA)の上垣内茂樹氏に対して、毛利宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトルでの「ふわっと92」ミッションにおいて、地上管制官として指揮した成果が評価され、同賞が贈られている。

今回のイベント会場でも、この上垣内氏が受賞したシルバー・スヌーピー賞の表彰状、そしてシルバー・スヌーピーのバッジが展示されており、実際に間近で見ることができる。

  • スヌーピー

    シルバー・スヌーピー賞の表彰状とピンバッジ。ピンバッジは宇宙船に持ち込まれ、宇宙飛行したものが贈られる (C) NASA/David C. Bowman

このほか、NASAの宇宙飛行士が船外活動をする際に着用する布製の帽子は、白い部分と黒い耳当てがスヌーピーに似ていることから「スヌーピー・キャップ」と呼ばれるなど、至るところに文化として根付いている。

さらに、NASAが進めている、アポロ計画以来となる有人月着陸計画「アルテミス」にもスヌーピーが参加。2024年に予定されている最初の月着陸ミッション「アルテミス1」に同行し、約半世紀の時を経て、スヌーピーが"月に帰る"ことになる。

(C) 2019 Peanuts Worldwide LLC
(C) TOKYO-SKYTREE

出典

FIRST BEAGLE IN SKYTREE(R) ! -アストロノーツスヌーピーと宇宙を知ろう-|東京スカイツリー TOKYO SKYTREE
NASA and Peanuts Celebrate Apollo 10’s 50th Anniversary | NASA
NASA - Snoopy Soars with NASA at Charles Schulz Museum
Silver Snoopy Award | NASA
Six Honored with Silver Snoopy Awards for Work Keeping Astronauts Safe | NASA