インド宇宙研究機関(ISRO)は2019年7月22日、月探査機「チャンドラヤーン2(Chandrayaan-2)」を搭載した、GSLV Mk-IIIロケットの打ち上げに成功した。
チャンドラヤーン2は、周回機と着陸機、そして探査車からなる大型の月探査ミッションで、先代のチャンドラヤーン1が手がかりを発見した「月の水」の詳しい調査のほか、将来の月面での活動に必要な技術の実証にも挑む。
チャンドラヤーン2を搭載したロケットは、日本時間7月22日18時13分(インド標準時14時43分)、インド南東部沿岸にあるサティッシュ・ダワン宇宙センターの第2発射台から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、約16分後に探査機を分離。打ち上げは成功した。
なおISROによると、ロケットの性能が想定より高く、遠地点高度(地球から最も遠い点)が約4万5000kmと、計画より高度が約6000km高い軌道に投入することができたという。これにより、月へ向かうのに必要な推進剤の量を減らすことができ、探査機やミッションの長寿命化につながるとしている。
7月26日現在、探査機の状態は正常で、また2回のエンジン噴射を行い、順調に軌道を上げているという。このあとも数回に分けてエンジン噴射を行い、徐々に月へ接近。8月20日に月の周回軌道に入る。
着陸機はその後、周回機から分離され、9月7日に月の南極付近への着陸を目指す。
チャンドラヤーン2が目指すもの
チャンドラヤーン2はISROが開発した月探査機で、2008年に打ち上げられたチャンドラヤーン1に続く、インドにとって2回目の月探査ミッションである。ちなみにチャンドラヤーンとは、サンスクリット語で「月」を意味する「チャンドラ」と、「乗り物」を意味する「ヤーン」をつなげた造語で、「月の乗り物」を意味する。
月を周回しただけのチャンドラヤーン1とは異なり、チャンドラヤーン2は月周回機「オービター」に加え、月面に着陸する着陸機「ヴィクラム(Vikram)」、そして探査車「プラギヤン(Pragyan)」からなる、大型のミッションでもある。ちなみにヴィクラムとは、インドの宇宙開発の父とも呼ばれる、ISROの初代総裁ヴィクラム・A・サラバイ(Vikram A Sarabhai)氏にちなんで名付けられたもので、一方のプラギヤンは、サンスクリット語で「知恵」を意味する。
インドが月着陸に挑戦するのは初めてで、成功すれば、インドは米国、ソ連、そして中国に続き、世界で4番目に月着陸を成功させた国になる。
チャンドラヤーン2には、「月の起源と進化について理解を深めるため、地形や鉱物学、表面の化学組成、熱物理的特性、大気の研究などを行う」という科学的な目標と、「将来の月面でのミッションに向け、月着陸や探査車の走行といった技術の実証を行う」という工学的な目標が設定されている。
科学的目標のなかでも、大きく注目されているのは月の水をめぐる探査である。先代の探査機チャンドラヤーン1はそのミッション中、NASAが提供した「月鉱物マッピング装置(M3)」と呼ばれる機器を使い、月の広範囲に水を含んだ分子を検出。また、同じくNASAが提供した「小型合成開口レーダー(MiniSAR)」が、月の極域に水分子が存在することを示すなど、月の水に関して大きな成果を残した。
今回のチャンドラヤーン2のオービターには、その成果を受け継いでさらなる詳しい探査を行うとともに、そして本当に月に水があるのか、その決定的証拠を探し出すための2つの機器を搭載している。
ひとつは、インドが開発した「二重周波数L&Sバンド合成開口レーダー(DFSAR)」で、月の地下5mまでの水や氷の堆積物を探ることができる。もうひとつは、同じくインドが開発した「画像赤外線分光計(IIRS)」で、水や、水の前段階の分子であるヒドロキシ基(水酸基)を検出することができる。
月の水をめぐっては、チャンドラヤーン1以外にも、米国などの探査機がその存在を示唆するデータを残しているが、いまなおその有無や、埋蔵量、資源として利用できるか否かなどについて研究や議論が続いている。チャンドラヤーン2の観測成果によって、いよいよそれに終止符が打たれるかもしれない。
とくに水は、人間をはじめ、多くの生物が生きていくうえで必要不可欠なものであり、さらに電気分解して水素と酸素にすれば、ロケットの推進剤にしたり、生命維持に使ったりもできる。水を地球から持ち込むことは現実的ではないため、もし月に水があり、現地調達ができるならば、人類の月探査や移住計画が大きく進む可能性もある。
そして、そのときに必要になるのが、月面に着陸したり、探査車を走らせたりする技術であり、まさに今回のミッションでヴィクラムとプラギヤンが実証する技術でもある。