IoTパッケージ活用の第一弾として行われたのが、この緊急停止を検知することだ。停止時には担当者の携帯電話にアラートが送られるほか、停止の前後計5分間の動画を確認することで停止原因の把握を可能にする。さらにトライアル中、追加されたのがリアルタイム動画閲覧機能だ。
「機械自体は動いているのですが、加工が終わった製品を置く位置がずれているということもあります。それは作業終了時の移動での荷崩れに繋がり、ひどい場合には半分がやり直しということにもなります。しかし、機械自体はエラーを出しているわけではないので、緊急停止アラートだけでは、その状況は検知できません。リアルタイムで動画が閲覧できれば、自分がいなくとも他の社員に電話等で指示をしながら修正することができます」(小林氏)
また、アラートを受けての対応時も小林氏自身が駆けつけるだけでなく、補助を頼める相手がいれば遠隔で対応できるようになった。
「出張中など、日中に機械が停止した場合、空き時間に電話することで夕方までに復旧させることができます。私の補助に付いている若手は、指示を出せば作業できますが一人で対応できるほどの技術と知識がまだありません。それでも電話で指示をすれば対応できます。現地と情報共有ができるというのは大きな進歩です。以前なら丸一日無駄になっていたところです」(小林氏)
作業終了から次作業開始までの停止時間をIoTで短縮
次に着手したのが、少量多品種生産だからこそ発生する機器の隙間時間をなくし、稼働率を向上させることだった。MOTORUM-2048HYBRIDには材料と仕上がり品を格納する棚が複数用意されているが、生産品が変わる時には一旦動作を終了し、オペレーターが動作指示を出す必要がある。
「機器が動作している間は私も別の仕事をしていますから、以前は同じ工場内にいても動作終了に気づかなかったり、作業のキリが悪くて駆けつけられなかったりと、1~2時間無駄にしていることがよくありました」と小林氏。
これまでは終了時間を見計らって移動するか、同じ工場内で別作業をしている社員からの連絡を受けて移動するかという働き方をしていたため、どうしても無駄な時間が発生していた。これがアラートを受けられることによって、小林氏自身が作業のために移動をしたり、作業指示を出したりすることが容易になったという。
「IoTパッケージの提供開始時に、機械の稼働率が4%向上し、120万円の利益増に繋がったと言いましたが、これは異常停止の検知に限った効果です。この段取り効率化の取り組みでは1カ月あたり10~12時間は無駄がなくなり、効率化できています。さらに大きな効果が出ているはずです」と語るのはトーメックス 常務執行役員 浅子英一だ。
負荷軽減、業務効率化という効果以外に、機器の稼働状況が「見える化」されたことで、若手育成に繋がる効果も期待できるという。
「私が若い頃は、段取り8割と言われたものです。実際、作業の9割近くは段取りです。これを縮めることで効率化できるわけですが、なかなか若手には理解しづらいのだろうと感じています。それがIoTパッケージで見える化されたことで、画面の黄色く表示されているところはもっと縮められるはずだろうと見せてやることができます」と小林氏は語った。