欧州などでも活発、学生ロケットによる宇宙への挑戦
USCRPLが宇宙に到達に成功した(可能性が高い)ものの、宇宙を目指す学生ロケットの動きは、ますます加速している。
なかでもとくに活発なのは、オランダ・デルフト工科大学の学生団体「デルフト・エアロスペース・ロケット・エンジニアリング」(DARE)である。DAREは2015年、「ストラトスII+(Stratos II+)」と名付けたハイブリッド・ロケットを打ち上げ、高度21.5kmに到達。USCRPLが2012年に樹立した高度19kmという記録を塗り替え、当時の学生ロケットの最高記録を打ち立てたこともあった。
さらに2016年には、もうひとつの活発な学生団体である、ドイツ・シュトゥットガルト大学の「HyEnD(Hybrid Engine Development)」が、「HEROS 3(Hybrid Experimental ROcket Stuttgart 3)」というハイブリッド・ロケットを打ち上げ、高度32.3kmに到達。DAREの記録を塗り替えるとともに、欧州のアマチュア団体によるロケットの到達高度としても最も高く、また学生のハイブリッド・ロケットの到達高度としては世界一となる記録を樹立した。
DAREは巻き返しをはかり、高度60~80kmに到達できるだけの性能をもった新型ロケット「ストラトスIII(Stratos III)」を開発。HyEnDに奪われた記録を大きく塗り替えるとともに、将来の高度100kmへの挑戦に向けた大きな一歩になることが期待された。ストラトスIIは2018年7月26日に打ち上げられたものの、しかし離昇から約20秒後、高度約11kmをマッハ約3で飛行している際に、突如として機体が分解。打ち上げは失敗に終わった。
それでも諦めることなく、DAREは今年6月14日、高度100kmの宇宙空間への到達を目指したハイブリッド・ロケット「ストラトスIV(Stratos IV)」を発表。打ち上げは2020年夏の予定で、成功すれば、学生ロケットとしてはUSCRPLに続いて2番目、また学生が開発したハイブリッド・ロケットとしては世界で初めての宇宙到達となる。
さらに、学生による液体ロケットの開発も活発化している。液体ロケットは、もともとウィーン工科大学や米国の大学などが開発しており、宇宙に到達したことはないものの、高度10km前後への飛行を行うなど、それなりの成果を出してきた。
そうした動きがさらに活発化した背景には、2018年5月に、STEM(科学・技術・工学・数学)教育の振興を目的とする米国の非営利団体「ベース11(Base 11)」が、「ベース11・スペース・チャレンジ(Base 11 Space Challenge)」を発表したことがある。これは、学生開発の液体ロケットによる宇宙到達を目指した技術コンテストで、最初に高度100kmに到達したチームには約1億円が贈られるというもの。これにより、米国やカナダの大学を中心に、開発競争に拍車がかかった。
今年6月13日には、最初の設計審査を通過した大学が発表。カナダのコンコルディア大学、ブリティッシュ・コロンビア大学、そして米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校、ポートランド州立大学、ミシガン大学の、計5チームが選ばれている。
このあとも何度かの設計審査や、地上燃焼試験の成果に対して贈られる中間賞などがあり、最終的に2021年12月までに、実際に打ち上げを行い、高度100kmに到達する必要がある。
未来への期待
USCRPLのような固体ロケット、DAREやHyEnDのようなハイブリッド・ロケット、そして液体ロケットと、世界中でさまざまな形で学生ロケットによる宇宙到達への挑戦が行われ、すでにUSCRPLのように成功者も生まれた。そう遠くないうちに、学生ロケットが宇宙に行くことは珍しくなくなるだろう。
それは、学生ロケットのレベルが大きく上がることを意味し、より実践的で、高度な技術を開発、そして習得できる機会となる。また、学生が主体的に宇宙ロケットを運用できるようになれば、微小重力環境を利用した実験や、宇宙や高層大気の観測などが独自に行えるようになろう。さらに、学生による衛星打ち上げへの挑戦といった可能性もみえてくるかもしれない。
なによりも、そうしたロケットの開発にかかわった学生の、卒業後の進路となる宇宙産業の発展・向上も期待できる。それは、ひいてはその国全体の科学技術の向上にも一役買うだろう。ベース11のようなSTEM団体が支援しているのも、それだけの価値や可能性があるとみなされているからに他ならない。
一方日本においては、現時点ではまだ、学生ロケットによる宇宙到達を目指した具体的な動きはない。しかし、構想はいくつかの大学や団体で立ち上がっており、いずれ実現することに大いに期待がもてる。とくに、5月のインターステラテクノロジズのMOMO 3号機の打ち上げ成功が、そうした夢を持つ学生にとって大きな刺激となったことは間違いないだろう。
そして今後、そうした動きを支え、受け入れる環境づくりも必要である。とくに、射場の確保や法手続きなどをめぐる課題や問題の解決や、安全面、資金面をはじめとする、さまざまなサポートを行う体制が求められる。
さらに、学生ロケットにかかわった知識や経験を、たんなる想い出で終わらせず、社会人になっても活用できるよう、その受け皿となる日本の宇宙業界のより一層の発展にも期待したい。
出典
・Traveler IV ― USCRPL
・TRAVELER IV ― USCRPL
・Traveler IV Apogee Analysis
・TXV - Base11 - TU Wien Space Team
・Base11 Space Challenge
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info