米国・南カリフォルニア大学の学生団体「USCRPL(USC Rocket Propulsion Laboratory)」は2019年5月22日、4月21日に打ち上げた小型の固体ロケット「トラベラーIV(Traveler IV)」について、データ分析の結果、高度100kmの宇宙空間に到達した可能性が高いと発表した。
そして6月14日には、オランダ・デルフト工科大学の学生団体「DARE(Delft Aerospace Rocket Engineering)」が、高度100kmの宇宙空間への到達を目指したハイブリッド・ロケット「ストラトスIV(Stratos IV)」を発表。さらに、液体ロケットの開発レースも始まるなど、世界中で学生ロケットによる宇宙への挑戦が活発になっている。
トラベラーIVをはじめとする、宇宙を目指す学生ロケットの挑戦と、そして学生ロケットが宇宙に到達する意義、その先にある可能性についてみていきたい。
宇宙への挑戦
高度100km、そこは一般的に、大気圏と宇宙の境界といわれている。この高度を目指し、これまで数多くのロケットが打ち上げられてきた。
世界で初めてこの境界を越えたのは、第二次世界大戦中にドイツが開発したA-4(V-2)である。その後、V-2の技術はソ連や米国に渡り、それぞれの国でV-2やその発展型の打ち上げが行われ、さらにそこから進化した独自のロケットの打ち上げが続々と始まった。
そして1990年には、当時新進気鋭の宇宙ベンチャーだった、オービタル・サイエンシズ(現在はノースロップ・グラマンに吸収)の「ペガサス」ロケットが、民間企業として初めての宇宙到達、また衛星の軌道投入を成し遂げた。その後も米スペースXなど、民間による宇宙到達が相次ぎ、最近では今年5月、インターステラテクノロジズの観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO 3号機」が高度100kmに到達。ロケットが宇宙に届くことはもはや珍しくなくなった。
一方で、それは国や企業が行う宇宙開発、ロケット開発においての話であり、ロケット愛好家からなるアマチュア団体においては、高度100kmという境界はいまなお大きなゴール、あるいは壁として立ちふさがっている。
アマチュア団体が開発したロケットが、史上初めて高度100kmに到達したのは2004年のこと。5月17日、米国のCSXT(Civilian Space eXploration Team)という団体が開発した「ゴーファスト(GoFast)」という固体ロケットが、ネヴァダ州にあるブラック・ロック砂漠から打ち上げられた。ロケットは打ち上げから158秒後に高度115.9kmに到達。この記録は、搭載されていた加速度計や磁力計などの複数の機器のデータを分析して導き出されたもので、米連邦航空局(FAA)もまた分析を行い、宇宙到達は間違いないと認めている。
同団体は2014年にもゴーファストの2号機の打ち上げを行い、高度117.6kmに到達している。
なお、宇宙の境界については、高度100kmではなく高度80kmとすべきとする意見もある。その立場に立つなら、1996年に米国の団体「リアクション・リサーチ・ソサイエティ(Reaction Research Society)」が開発したロケットが、高度80kmに到達している。
国家が、民間が、そしてアマチュア団体が宇宙に届いたことで、続いて「世界初の宇宙到達」の栄冠は、学生団体の分野で、輝く場所を追い求めることになった。
学生ロケットとして世界で初めて宇宙に到達したUSCRPL
学生団体による宇宙到達への挑戦は、少なくとも10年以上前から、米国や欧州、日本など、世界中で進められていた。しかし、ロケットの技術をはじめ、資金、射場、法律など、さまざまな問題から、長らく実現することはなかった。
そして今回、その困難を乗り越えて、「学生ロケットによる世界初の宇宙到達」という栄冠を手にしたのが、南カリフォルニア大学の学生団体、ロケット推進研究所(USCRPL)である。
USCRPLは2005年に、「学生が設計、製作したロケットで宇宙に到達すること」という明確な目的をもって設立された。メンバーは南カリフォルニア大学の学生で、固体とハイブリッド・ロケットの技術から、複合材料、電子機器などを内製化。これまでに12機以上のロケットを開発し、8回のミッションを行なっている。
こうした10年以上の開発や経験を経て、宇宙到達を目指して開発したのが「トラベラーIV(Traveler IV)」というロケットである。直径0.23m、全長は9.7mで、固体推進剤を使う。
トラベラーIVは2019年4月21日、ニュー・メキシコ州にあるスペースポート・アメリカから打ち上げられた。飛行を終えたロケットは、パラシュートを開いて降下し、発射台の近くで回収された。
ところが、GPSデータの記録が十分にできておらず、到達高度はすぐにはわからなかった。USCRPLは約1か月かけて、他のデータをもとに飛行結果を分析。その結果、最高速度はマッハ5.1、到達高度は「33万9800ft(約104km) ± 1万6500ft(約5.02km)」だったと算出した。このことから、学生が設計・製造したロケットとして最高高度に到達したと考えらえるとともに、「90%の確率で、高度100kmのカーマン・ラインを超えたと考えられる」と結論づけている。
やや歯切れの悪い形とはなったが、FAAもこの分析結果、記録を支持しており、米国内のメディアなども「宇宙に到達」と報道。分析結果は公表されているが、それに対して異を唱えるコメントなども出ておらず、世界的にも宇宙に到達したとみなされている。
ちなみに、前号機にあたるトラベラーIIIは、2018年9月に打ち上げられているが、打ち上げ前に電子機器の電源を入れ忘れるというミスがあり、飛行データが記録されていなかった。地上から観察された飛行経路や回収後のロケットの様子などから、宇宙空間に到達したと推定されているものの、今回のような裏付けとなるデータがないため、USCRPLは成功とはカウントしていない。