シャーベンバーガー氏の講演に続いて、同社の顧客によるパネルディスカッションが行われた。パネリストが所属している企業はいずれもSAS製品を活用して、デジタルトランスフォーメーションを推進している。モデレーターを務めたのはSAS Institute Japan 代表取締役社長の堀田徹哉氏だ。
堀田氏は、デジタルトランスフォーメーションを成功させるカギは「技術」「プロセス」「人」を掛け合わせることと説明した。「足し算ではなく掛け算であることがポイント。なぜなら、掛け算では要素が1つでもゼロになるとゼロになってしまう。デジタルトランスフォーメーションも同じで、3つの要素のうち、1つでもないと成立しない」と、同氏は3つの要素がそろっていることが不可欠だと述べた。
4人のスピーカーが、デジタルトランスフォーメーションにおける「技術」「プロセス」「人」の活用について、自社の状況を踏まえて意見を述べた。
DX推進において技術をどう活用するか?
コニカミノルタではデジタルトランスフォーメーションに取り組み始めて5年たっているが、同社の中核技術である画像認識を活用したサービスを創出するなど、データビジネスに取り組んでいる。データサイエンティストの育成にも積極的で、10年前から教育を行ってきたそうだ。
コニカミノルタ 執行役 IoTサービスPF開発統括部 統括部長江口俊哉氏は、同社の技術に対するスタンスについて次のように語った。
「今後、AIを活用した差別化、高付加価値化を重視していきたい。アナログ世界からデジタル化してSASの技術につなげていく。そこでは、画像認識、音声認識、言語解析を差別化のポイントとする。これら技術とSASの製品から得たアナリティクスを掛け合わせることで、価値を生み出していきたい」
また、みずほ銀行は今年4月に中小企業向けの新サービス「みずほスマートビジネスローン」の提供を開始したが、同サービスにSAS製品を活用している。同サービスは、各種データやAIを活用した審査モデルによる融資サービスで、正式審査申込から最短2営業日で融資を受けることができるという。
みずほ銀行 リテール法人推進部 部長 半田邦雄氏は「多様なデータをどうハンドリングするか、モデルをいかにチューンアップするかという課題を解決するためにたどり着いたのがSAS Viyaだった」と語った。
Viyaが標準で備えているAPIによって既存のコンポーネントを活用できたことで、半年以内でサービスを作り上げることができたという。これまでやってこなかったアジャイル開発、マルチベンダーによるシステム構築に取り組んでいきたいという。
DX推進においてプロセスをどう進めるか?
イオンフィナンシャルサービスグループのエー・シー・エス債権管理回収では、AIやITを活用した債権回収を行っている。同社の代表取締役社長を務める表寺務氏は「債権回収にスコアリングモデルを活用しているのは珍しいこと」と話した。
スコアリングモデルを用いることで、入金率が3.5ポイント改善したそうだ。ちなみに、オペレーション管理において、SASのマーケティング・オートメーションを活用している。
同社はプロセスを可視化するシステムを構築するにあたり、フルスクラッチによる開発の提案を受けたそうだ。しかし、時間もコストもかかることから、2つのパッケージシステムをカスタマイズすることにした。「パッケージにはそのベンダーが培ってきたノウハウが詰まっているので、それを活用しない手はなかった」と表寺氏。イノベーションを進めていく上では、スピードが重要であり、使えるノウハウは活用していくべきというわけだ。
NTTドコモは、dポイントやd払いといったデジタルマーケティングの推進にあたってSAS製品を活用している。執行役員 情報システム部長 長谷川卓氏は「これまで、お客さまとは2年に1度しか顔を合わせることがなかったが、これではエンゲージメントを強化することはできない。今後の課題は、dポイントをいかにしてお客さまの生活にアタッチしていくかということ」と語った。
長谷川氏は、デジタルトランスフォーメーションは企業を変えていくものなので、トップがコミットすることが重要だと説いた。ドコモではデジタルマーケティングを推進する組織を新設、同氏は「デジタルトランスフォーメーションを全社的なムーブメントにしていくべき」と語った。
DX推進に向けて人をどう育成するか?
今、日本企業は人手不足が進んでいるが、デジタルトランスフォーメーションを担うことができるような人材は特に少ない。データサイエンティストなどは海外でも引く手あまたと言われている。
先に述べたように、コニカミノルタはAIブームがやってくる前から、データ活用を担う人材の育成に取り組んできた。具体的には、4種のICT、AIに関わる人材(データサイエンティスト、ITアーキクテト、システムアーキテクト、プロダクトオーナー)を育成するため「データサイエンス人材認定制度」を整備した。
その一方で、認定制度の頂点となる「Expert」については、優れた人材を外部から獲得し、その人を核として人材の育成を進めている。
コニカミノルタと同様に、NTTドコモも「シニアプロフェッショナル制度」という社内制度を立ち上げている。長谷川氏は「データドリブンな経営は現場で起こる。だから、全社のデータリテラシーを挙げることが必須」と述べた。