先陣を担った台湾、猛追する韓国、確立したインフラを活かす中国
マイクロLEDの研究開発は2000年代頃から欧米の大学・研究所で行われており、台湾でも工業研究院(ITRI)が2010年前後から力を入れ始めた。台湾ではLEDのサプライチェーンが確立されていた事と、LCDやOLEDでは他地域との競争で後塵を拝したため、LEDディスプレーで巻き返したいという思いもある。
以下の図は、マイクロLEDがブームになり始めた2016年頃のLED Displayの全体像を筆者が描いた図を、最近の状況に合わせてアップデートしたものである。大きな変化はミニLEDの登場と、新たな市場としてLCD用直下型バックライトの市場が2018年に急速に立ち上がりつつあることである。LEDの小型化に伴い先ずはミニLEDが市場に出て技術やサプライチェーンがこなれてくれば、それが今後のマイクロLEDの発展を大きく後押ししていくことになる。
台湾の2大ディスプレイメーカーであるAUOとInnoluxも、先手を打ってLEDディスプレーの開発を進めており、その状況は2018年の台湾の展示会「Touch Taiwan」にも現れていた。マイクロLEDそのものの開発もさることながら、先ずはミニLEDを実用化して市場をリードする戦略である。その為の技術がLCDバックライトへのミニLEDの応用である。
一方、LCDからOLEDへの転換を図ってOLEDディスプレーで業界をリードしてきた韓国勢もマイクロLEDに向かって動き出ている。
Samsungは、2018年、2019年とCESで積極的にアピールし、LGも2018年秋のIFAで173型のLEDディスプレーの展示を行った。2019年のIFAでは、もう一回り小型化したものを開発し出展するという噂も流れている。この2社ともにLCDおよびOLEDの技術・製品を有しており、LEDディスプレーも含めた全方位での展開をにらんでおり、大画面のLEDディスプレーの技術では、すでに台湾をキャッチアップしたと言っても良い。
また、中国では2010年頃に多くのLED工場が立ち上がり、技術的には台湾の後を追っているもののLEDの生産量ではすでに台湾を追い越している。これらの中国LEDメーカもミニLEDでは着実に市場を拡大しており、マイクロLEDの開発にも参入し始めている。中国の市場ではすでにサイネージ用の巨大なLEDディスプレーが街中に溢れており、LEDディスプレーのインフラやサプライチェーンの完成度では、台湾や韓国をリードしていると言っても過言では無い。
一方、日本では、ノーベル賞受賞者を輩出する高い開発力でLEDの高性能化の研究が大学を中心に進められており、この技術を産業化し技術力でLED市場をリードしていく戦略が今後求められるだろう。LED産業の規模や量産インフラという面では、残念ながら台湾や中国に差を開けられている。LCDでは、技術力でリードしていた日本メーカーが、今ではニッチな市場で生き残っていくしかないという状況に追い込まれてしまっている。
ミニからマイクロへの着実な進歩で市場拡大するLEDディスプレー
2019年2月に中国・深圳にてミニLEDに関する検討会があり筆者も参加した。そこでは、サイネージ用のパッケージLEDに関する議論が中心ではあったが、その先のフリップチップ型ミニLEDや、さらに先にあるマイクロLEDに関する熱心なディスカッションも行われており、中国のLED産業のインフラの広さや開発スピードの速さを実感する内容であった。
また、3月には同じく中国の昆山でディスプレー国際会議「ICDT2019」が開催され、マイクロLEDに関する3つのセッションで16件の講演が行われた。海外からの招待講演や中国ローカルの発表も交え、満席の会場で若い技術者が熱心に聴講している姿を見ると、今後のマイクロLEDの立ち上がりもそう遠くはない様に感じる。その時になって慌てないように、日本のLED開発に対する高い技術力を活かしながら台湾・韓国・中国の産業インフラとうまく連携するような仕組みを今から作っておく必要がある。でないと、LCDと同様に産業の発展から取り残される結果に陥ってしまうだろう。
著者プロフィール
北原洋明(きたはら・ひろあき)テック・アンド・ビズ代表取締役
日本アイ・ビー・エムにて18年間ディスプレー関連業務に携わった後、2006年12月よりテック・アンド・ビズを立ち上げ、電子デバイス関連の情報サービスを行っている。
中国のディスプレー関連協会の顧問などもやりながら産業界の動向や技術情報を整理し業界レポートや講演活動なども行っている。
直近の講演ではマイクロLEDやQD(量子ドット)にフォーカスした日経XTechラーニングを予定している。