パワー・モジュールが競争力を持つためには、その設計に高い電力密度、優れた熱特性を持ち、完全な機能特性を備えていることが求められます。
パワー・モジュールの設計がこのニーズに応える1つの方法が、その電源アーキテクチャに、MOSFETを外付けした降圧コントローラを使用することです。MOSFET外付け型の降圧コントローラにより、電流のスケーラビリティが実現し、間隔があくことで優れた熱効果が得られ、パワー・モジュール設計で非常に重要となります。本稿では、MOSFETを外付けしたDC/DC降圧コントローラの動作を、MOSFET内蔵型のコンバータ・ソリューションと比較していきます。
外付けMOSFETの考慮事項
MOSFETが内蔵されているコンバータの場合、設計はコンバータ・メーカーが選択したMOSFETに制約を受けます。降圧コントローラと外付けMOSFETを用いるパワー・モジュール設計には、設計で使用するMOSFETを選択できるという自由度があり、価格、給電、電流スケーリングの面でメリットをもたらします。しかし、何よりも重要なのは、最適な効率と熱管理のために制御FETと同期FETのサイズを柔軟に決められることです。
例えば、0.8V~1Vのようなコア電圧に使われるパワー・モジュールでは、同期FETに対する低いRDS(on)のメリットが得られ、一方で5Vまたは3.3Vのレール電圧に使われるモジュールでは、制御FETと同期FETの両方で同様なRDS(on)値のメリットが得られるでしょう。
効率の高さが求められる設計もあれば、費用対効果を重視した設計もあるので、そのどちらにでも対応できる柔軟性は大きな利点となります。コントローラで外付けMOSFETを使用すると、コントローラを変更しなくてもさまざまな電流レベルにソリューションを合わせることもできます。
熱特性
パワー・モジュール設計で考慮すべき重要な点の1つは、熱の管理です。熱が適切に管理されないと、効率性にマイナスに働く可能性があるだけでなく、基板に損傷を与えることさえあります。高度な冷却システムやヒート・シンクを使って外部的に回路基板を冷却する方法はいくつもありますが、最初から熱のことを念頭において設計することで、放熱の問題を大幅に抑えることができます。
熱特性を向上させる設計方法の1つは、MOSFETを外付けしたDC/DCコントローラを使用することです。部品表(BOM)の部品の数が少ないほどシステムの信頼性が増すという見識は広く知られていますが、必ずしも常にそうなるわけではありません。コンバータ設計では、1つの統合パッケージの内部で部品が非常に近い位置にあるため、内部MOSFETからの熱がどれくらいコントローラの性能と信頼性に影響するかを考える必要があります。MOSFET内蔵コンバータがコントローラ・ソリューションと電気的にまったく同じであったとしても、表面積が大きくなるディスクリート・パッケージの場合のように、簡単に内蔵MOSFETを冷却することができないため、その設計での温度は一般的に高くなります。
外付けMOSFETはコントローラと離れているため、コントローラにMOSFETを外付けしたシステムの方が信頼性は高くなる可能性があります。図1と図2に、テキサス・インスツルメンツのPMBus対応降圧コントローラ「TPS40400」とPMBus対応降圧コンバータ「TPS544B25」をそれぞれ使用した、2つの電力ソリューションでの熱特性の測定結果を示します。
TPS40400の条件は、20Aで入力12V、出力1.2Vです。TPS544B25の条件は、20Aで入力12V、出力0.95Vです。TPS40400コントローラ・ソリューションは最大温度が47℃に達し、一方でTPS544B25コンバータは最大温度が67.7℃に達しました。コントローラからMOSFETの距離を離すことで熱特性が向上し、障害を起こしたり、基板に永久的なダメージを与えたりするおそれが少なくなることがこの画像に示されています。
さらなる分析のために、MOSFET外付けの「TPS40345」を使用する設計例1を、「TPS544C25」コンバータを使用する設計例2と比較します。この比較のために、同じ条件で各システムの消費電力を算出します。
ケースNo.1:TPS40345とともにCSD16410Q5AおよびCSD16321Q5 NexFETパワーMOSFETを使用
条件:
- VIN = 12V、VOUT = 1V、IO = 20Aおよび30A、RDS(on)_HS = 9.6mΩ、RDS(on)_LS = 2.6mΩ
- fSW = 600kHz、L = 0.47μH、0.3mΩ
ケースNo.2:TPS544C25コンバータ
条件:
- VIN = 12V、VOUT =1V、IO = 20Aおよび30A
- fSW = 500kHz、L = 0.47µH、0.3mΩ
表1では、TPS40345とTPS544C25の電力損失と温度上昇を比較しています。ほとんどのパラメータが同様の値ですが、TPS40345の周波数だけがわずかに高くなっています。これは不利な点ではありますが、コントローラ・ソリューションでは、特に出力電流が30Aのときは個別の部品の温度上昇がコンバータよりも低くなることに注意してください。ローサイド(LS)同期FETに低いRDS(on)値を選択することで、さらに温度上昇を抑えることができます。
ケースNo.1のコントローラ・ソリューションでの電力損失の計算では、コンバータ損失は、コントローラとFETの損失を足したものなので、アクティブ・デバイス損失のみが考慮されています。
コンバータの場合は、図3の効率曲線を使用し、アクティブ・デバイスの損失を求めるためにインダクタの損失を減算しました。図4の安全動作領域(SOA)曲線を見たとき、表1の数値が自然対流の場合のSOA曲線と非常に良く一致することに注意してください。例えば20Aのとき、表1の温度上昇は55℃で、SOA曲線から最大周囲温度は80℃です。温度上昇に最大周囲温度を加算した値は、デバイスのTj(max)である125℃に近くなるはずです。
では、デバイスが30Aで使用されていると想定します。最大動作周囲温度はTPS544C25の場合30℃となります。TPS40345と外部FETの場合は、最大動作周囲温度は150℃– 94.5℃ = 55℃です。この場合150℃とはFETのTj(max)であり、制限要因になります。これは動作周囲温度の上限が25℃高まることになり、大きな意味があります。同期LS FETを最適化することによっても、この制限要因に簡単に対処できます。一方でコンバータの場合は、冷却方法が別に必要になります。