管理職は? 高プロは? 名目上の立場変更だけではNG

では、時間外労働時間の上限規制に、企業はどう対応していくべきなのだろうか。基本的な業務の見直しやシステム活用による業務効率化を行った上で、経営層に加えて、労働者もこうした規制について学ぶことが大切と言える。

「一般社員にも、労働時間規制に関する研修をするなどは必要でしょう。例えば、休日出勤の時間を代休で相殺することはできません。土日が基本的に休みになる週休2日制の場合、日曜日が法定休日であれば休日出勤扱いですが、土曜日は時間外労働です」と大槻氏。こうしたことをきちんと理解していれば、労働者は自分の労働時間を把握した上でコントロールできるかもしれない。また、企業側は土曜日ではなく日曜日に働いてもらうことで、時間外労働に法定休日を含まなくてよい計算になる規制に対応するという手法もあるだろう。

「上限規制ということで、労働時間をどう減らすかが注目されていますが、この規制に抵触するのは一部の人だと思います。労働時間が多い人は、すでに管理職になっていたり、十分な高額報酬を得ていたりするものです。例外は管理職ではないクリエイターなどでしょうか。そういう人にもきちんとタイムカードを押してもらうなどの指導は必要ですね」と、大槻氏は語る。

今回の対象になっているのは、管理職以外の一般社員だ。そのため法対応を進めると、一般労働者の時間外労働を削減しなければならず、対象外である管理職や裁量労働制の人に負担が回ることになるだろう。対象外である管理職や管理職に対し労働時間の上限は設定されていないが、働かせ放題というわけにはいかないだろう。

「労働環境に問題がある場合、退職時に訴えるというケースが多いですが、中には家族からの訴えというケースも少なくありません。管理職とは、経営者と一体的な立場や裁量を持つ人です。これを厳密に考えると、一般的な企業の場合、課長程度で経営者と一体といえるほどの権限を持つ人は少ないでしょう。いわゆる"名ばかり管理職"として訴え出るケースがあるのです」と大槻氏。

働き方改革関連法では、技量があり、高額の報酬を得ている人を規制対象外にする仕組みとして「高度プロフェッショナル制度」を設ける。同制度の対象となる業務は、高度な職業能力を有する労働者が従事するものであり、正式には規定されていないが、以下の5つが要件となると言われている。

  • 金融商品の開発業務
  • 証券会社のディーラーといった「ディーリング業務」
  • 市場や株式などのアナリストの業務
  • コンサルタントの業務
  • 医薬品などの研究開発業務の5つ

同様に、年収も正式に規定されていないが、対象労働者の年収要件は1075万円以上と言われている。上記の業務に従事しているという条件はともかく、1075万以上の年収を得ている人はそれほどいないだろう。

「高度プロフェッショナル制度を導入するには、本人の同意が必要ですから企業側が押しつけることはできませんし、負担も少なくありません。中小企業は年収の条件で導入が難しいでしょう。私が知る範囲でも、活用予定の企業は金融系で1社しかありません」と、大槻氏は語る。従来の働き方を変化させず、名目上の立場変更だけで乗り切るということは難しそうだ。

在宅・外出先での労働は現実的な自己申告で対応

さらに、大槻氏は「私が見ている範囲では、裁量労働制は利用しづらくなったのでフレックスタイム制へ移行するという動きが見えます。また働き方自体を変える企業も増えました」と説明する。

近年、導入が増えている働き方といえば、在宅労働や外出先での業務だ。以前は、ある程度労働時間をみなし計算できたが、近年はその管理も厳密に求められる傾向にあるという。

「今は誰でもスマートフォンを持っていますから、それを使ってきちんと申告させなさいという形になっています。監督官によっては、『自己申告ではなく客観的に、本人にはわからない方法で厳密な労働時間を取得しなさい』といったことを言う人もいます。その際に具体的な案が提示されないのが困ったところですが。過渡期なので人によって言うことが違うこともあるのです。現実的には『毎日9時から17時まで働きました』ではなく、現実的な時間をきちんと自己申告させるべきでしょうね」と大槻氏は語った。

働き方や雇用形態が多様化している中、細かな労働時間の管理が必要になってきている。従来型の管理では対応しきれない、これまで利用してきたシステムでは細部への対応は難しいという企業もあるだろう。36協定の時期によって実際の対応時期に違いは出てくるが、大手企業はもちろん中小企業にとっても対応を先送りする余裕はない。システム導入や人員増強など、早めの対応が必要だ。