宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は4月12日、開発中の大型ロケット「H3」の第1段厚肉タンクステージ燃焼試験を実施、その様子をプレスに公開した。H3ロケットのBFTは4回目となるが、公開したのはこれが初めて。「LE-9」エンジン2基による前半試験は無事完了し、今後はエンジン3基による後半試験を行う予定だ。

  • H3ロケット

    H3ロケット第1段厚肉タンクステージ燃焼試験の様子

燃焼試験が行われているのは、MHIの田代試験場(秋田県大館市)。青森県との県境に近い山中にあり、N-Iロケットの時代からこれまで40年以上、各種燃焼試験に利用されてきた日本の宇宙開発の拠点の1つだ。この試験場については、2016年に掲載したレポート記事があるので、詳しくはそちらも参照して欲しい。

  • MHIの田代試験場

    MHIの田代試験場。4月も半ばなのに、まだ雪に覆われていた

  • 田代試験場

    そして道中は相変わらずの悪路。いつもながらハードな取材である

BFTというのはどんな試験?

今回実施したのは、H3ロケット第1段の厚肉タンクステージ燃焼試験(BFT:Battleship Firing Test)と呼ばれる試験だ。すでに、LE-9エンジンの燃焼試験はJAXA種子島宇宙センターで行われてきたが、これはエンジン単体の試験。一方BFTは、実機相当の配管なども組み合わせて、推進系というシステムとしての機能や性能を確認するのが目的だ。

  • H3とBFTの比較

    実機(左)とBFT(右)の比較。タンクは実機と違い、容量も小さい (C)MHI

エンジンは実機と同じように、2基または3基を使用。そのほか、推力方向を制御するジンバル、燃料(液体水素)・酸化剤(液体酸素)を供給する配管やバルブも実機相当のものを搭載し、エンジン単体試験よりも、実際のフライト状態に近い構成で試験を行う。

実機と大きく違うのは、燃料と酸化剤のタンクだ。本当に飛ぶわけではないため、軽量化する必要は無く、ステンレス製の厚肉タンクが使われている(だから厚肉タンクステージ燃焼試験と呼ぶわけだ)。どのくらい厚いかというと1cm程度とのことで、この頑丈さが"BFT"という名前の"Battleship"(戦艦)の由来となっている。

H3ロケットは、2020年度の初飛行が予定されており、開発はいよいよ大詰め。JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャは、現状について「山の頂が見え始めている」とした上で、「これまで個別に開発してきたものを、システムとしてまとめ上げる段階になった。試験規模は大きくなり、難易度も上がっていく」と述べ、気を引き締めた。

  • 岡田匡史

    JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャ

BFTの実施に先立ち、前日には、田代試験場の設備の公開も行われた。BFT用の燃焼試験スタンドは9階建てで、高さは50m程度。LE-9エンジンは、4階部分にノズルスカートが出ており、その上の5階部分に上部燃焼室やターボポンプなどがある。その上の階には、さらに燃料タンク、酸化剤タンクと続く。

  • BFTを実施する燃焼試験スタンド

    BFTを実施する燃焼試験スタンド。エンジンは外からほとんど見えない

  • 燃焼スタンド

    4階部分。2基のLE-9エンジンで燃焼試験を行うのはBFTが初めてだ

  • 燃焼スタンド

    4階と5階の間。上に見えるエンジン部構造体も実機相当となる

  • 燃焼スタンド

    5階。あちこちにケーブルがあり、引っかからないようにとの注意があった

  • LE-9エンジン

    LE-9エンジンの上側。ターボポンプやメインバルブが搭載されている

  • ジンバル

    これはジンバルのアクチュエータ。H3では油圧から電動に変わっている

この燃焼試験スタンドがBFTに使われるのは、H-IIBロケットの開発時以来。しかしH-IIBが「LE-7A」エンジン×2基であったのに対し、H3ロケットはLE-9エンジン×2基/3基となり、最大でおよそ2倍もの推力が発生する。その増大した熱や衝撃を吸収するため、煙道への散水の量を増やすなどの改修を施したそうだ。

  • 煙道

    スタンドの右側面に回り込むと煙道が見える。ここに噴煙が流れ込む

  • 耐火コンクリート

    耐火コンクリートは改修時に新しく交換されたが、すでに燃焼ガスの跡が

  • 散水用の配管

    上の方には散水用の配管が見える。これで噴煙の熱や衝撃を和らげる

  • 散水用タンク

    左の散水用タンクが、H3用に追加された設備。これはガス押しとのこと