--デジタル化の波に乗れる企業、うまく乗れない企業はどこが違うのか?--

福田氏: 企業の経営陣と話をするとすぐにわかるが、違いの1つとして、時代の空気、方向感、風向きを読み、ディスラプト(崩壊)される側ではなく、ディスラプトする側になろうとするマインドセットや行動力のある経営者かどうかが挙げられる。ITリテラシーがあるかどうかも重要であり、異質や異端なものを受け入れる文化、失敗をよしとするかと言った社風も関係している。

--社風を変えるのは簡単ではないが。-- 福田氏: 日本の企業はいいところが多いが、真面目すぎる。デザインシンキングにおける「これをやるべき」ということが苦手で、「これはやるべきではない」という理由をたくさん挙げている。例えば、若手社員が新規事業のアイデアを提案しても、年上の社員が「わかってないな、10年前にやったんだけど無理だった」などと否定する。そうなると、この若手社員は二度と口を開かなくなるだろう。

今は正解がないことにどう取り組むかが求められる時代。積極的に考え方、価値観、カルチャーを変えていかなければイノベーションは起こせない。そういう部分に対しても、SAPはいい仕事をしていると自負している。これまで頂上が見えていなかったが、今はまだはるか先ながら、雲が晴れてきて登るべき頂が見えてきた。「こう行けばいけるな」ということがわかってきた。

--2019年の優先課題は何か?-- 福田氏: 粛々と、汗をかきながら日本型のデジタル変革を学び、進化させて行く。その上で、課題を3つ挙げたい。

1つ目として、SAPのDNAはパッケージ化やフレームワーク化して展開することにあるので、誰もがそれを使ってイノベーションを起こすことができるフレームワークをさらに強化していく。全員がこういうやり方をすればなにか新しいものが生まれる――イノベーションの工業化、イノベーションを量産するフレームワーク作りに挑戦したい。ここでは、先のTechLabや異業種が集まる「Business Innovators Network」などが取り組みの中心となる。

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2つ目として、デジタル変革という"攻め"を受け止められる企業IT(基幹システムなど)の姿をしっかり突き詰める。SAPのERPは相当な数の企業に使ってもらっているので、公の器だと思っている。いざデジタル変革が起こった時に受け止められる基幹システム、企業システムにしておくことはわれわれの義務だ。そういう意味ではS/4への移行、基幹システムのクラウド化を進め、企業の情報システム部門を基幹システムの保守から解き放つ必要がある。そこを推進する。

3つ目は、1つ目の"攻め"と2つ目の"守り"に対し、役に立つ、あるいは価値を提供できる個人、そして会社でありたいということ。企業が攻めと守りに取り組むとなった時、信頼いただけるパートナーとして、伴走して共に日本企業のデジタル変革に貢献できる会社でありたいと思っている。社員がそれに資する個人に進化すること、さらにはそういう社員を増やしていくことが大切だ。

--デジタル変革を支える個人という点で、どんな施策を実行しているのか?--

福田氏: 真面目すぎる日本人とは違う感じでやろうということで、中期計画はデザインシンキングを使いながら多様なメンバーで作った。

具体的には、People(人)、Place(場所)、Process(プロセス)の3つの「P」を変える必要があると考えた。人については顧客のSnowpeak社の協力を得て、熱海でグランピング型の研修を行った。「なぜSAPで仕事をしているのか」「どんな存在になりたいか」「そのためにどう進化すべきか」といったことを社員に考えてもらった。世界では、社内起業制度のようなものもコンテスト形式でやっている。

「やってみる」ということが大事だと考えている。そこでの気づきなどを日本流にアレンジしながらお客さまに提供していきたい。ガラパゴスにしてしまってはいけないが、少し日本流が入った、抹茶味のキットカットのようなソリューションを提供していきたい。