Microsoftが量子計算開発キットを提供
Microsoftの量子計算開発キットは、Q#言語でプログラムし、Visual Studioでデバグを行い、量子シミュレータでシミュレーションして動作をさせて見ることができる。そして、ライブラリやサンプルプログラムが揃っており、ドキュメントも提供されている。
Microsoftの量子計算開発キットは、クロスプラットフォームであり、Windows、MacOSとLinuxで使えるようになっている。
マメ科植物の根粒菌などの窒素固定のプロセスは、通常の古典コンピュータでは計算できる限界を超えている。しかし、200qubitの量子コンピュータが使えるようになれば、それがどのように行われているかを理解できるようになる。
MicrosoftはPNNL(Pacific Northwest National Laboratory)と協力して量子化学計算の高速化を可能にする環境を開発している。この開発では、知られている最良のアルゴリズムをQ#で実装し、NWChemに組み込んでいる。
このシステムは、小規模な問題をシミュレータで動かしてテストすることができる。また、大規模な問題が必要とする資源の量を見積もったり、プロフィールを生成したりすることができる。
また、量子コンピュータは、従来のコンピュータよりも強力なマシンラーニング用マシンを実現できる。
さらに、量子コンピュータは、セキュアなプライベートクラウドコンピューティングとサーチを実現したり、量子計算で加速されたランダムアルゴリズムを実現したり、量子マネー、量子ゲーム、量子ソーシャルネットワークなどを作る可能性もある。
量子コンピュータ実用化の課題とは
この講演でTroyer先生が強調していたのは、量子コンピュータは実現に近づいているが、従来のコンピュータを置き換えるものではない。量子コンピュータは、膨大な計算を必要とするが必要とするデータは少ないBig Compute/Small Dataの特定の問題に対する非常に強力なアクセラレータとなり得るという点である。
量子アルゴリズムを非量子化することにより、量子計算から着想を得た古典コンピュータで実行できる新しいアルゴリズムが開発されており、現在でも役に立っている。
Troyer先生の講演は、データの読み出しのためには正解が読み出せるようにするリダクションが必要で、効率の良いリダクション法を見つけることが重要とか、量子計算は演算は容易だが、メモリを作るのは高くつくとか色々と量子計算の問題点の指摘もあったが、全体的には量子計算に前向きの内容であった。
しかし、足元をみると、量子計算を行うには全部のqubitがもつれ(Entanglement)状態であることが必要であるが、50qubitという小規模な系でもミリ秒に届かない時間しかもつれ状態を維持できておらず、3時間もかかる量子計算ができるようになるのはまだまだ遠い先の話であろう。
また、IBMの超電導の50qubitの量子コンピュータは、熱雑音を減らし、もつれ状態を長くするため素子を14mK(絶対温度で0.014度)まで冷却しており、その冷凍機に20kWの電力を必要としている。Qubit数に比例して電力が増えるわけではないと思うが、それでもqubitが増えれば配線が増え、配線を伝って流入する熱量も増えて冷却電力は増える。温度を14mKより下げるとなると発熱をさらに深い井戸からくみ出すようなもので、冷却電力も増える。
指数関数的な高速化というバラ色の夢を抱いて、足元の困難さを1つずつ解決していくという開発が続くことになるのではないかと思われる。