今回のSC18では、ソニーがブースを出していた。これまでソニーのブースを見たことはなく、初出展と思われる。

一方、これまで毎回出展していた日立のブースが見当たらなくなってしまった。日立は、最近ではIBMのPowerサーバを中心とした展示でSCに出展する意義が薄れてきている印象はあったが、日本を代表するコンピュータメーカーの一角がSCの展示から消えてしまうのは寂しいことである。

新規出展のソニー

ソニーが展示していたのは、「Crystal LED Modular Display」という製品である。普通のディスプレイは表示を明るくするため、液晶やAMOLED(有機EL)の発光面積を大きく取る。しかし、発光する部分は環境光の反射も多いので、画面のコントラストは高くできない。

これに対して、同社のCrystal LEDディスプレイは1.26mmのピクセルピッチに対して発光素子のサイズは3μmで、大部分の面積は反射がほとんどない黒の領域である。したがって、コントラストが100万対1と非常に高い。また、発光部分が小さいので視野角も広く、展示されたディスプレイは息をのむ美しさであった。

  • ソニーのクリスタルLEDディスプレイ

    この写真では凄さを伝えられないが、右の車のディスプレイは息をのむ美しさであった。左の小ぶりのディスプレイは3D表示を行っていた

ただし、ディスプレイのLEDモジュールのピッチは1.26mm固定であるので解像度を増すとディスプレイの面積が大きくなってしまう。4Kのディスプレイユニットのサイズは403.2mm×453.6mm×100mmで、想定する用途はショーでの展示や企業の受付での展示などである。

素晴らしい画面を表示する技術ではあるが、HPCサーバなどと比べると市場規模は小さいと思われ、ソニーが継続してSCに出展するかには疑問が残る。

ポスト京や液浸冷却を展示した富士通

富士通のPost-K(ポスト京)のラックは前面からCPUボードを差し込むと、冷却水と電気のコネクタが挿入されるという構造になっている。そして、このラックの後ろ側を合わせて筐体に収容している。したがって、CPUボードを筐体の前後から差し込むことができる。

  • 富士通ブースの全貌

    富士通ブースの全貌

CPUボードは基本的に水冷であるが、電源など空冷の部分もあるので、2つのラックの間のところから冷風を入れて、CPUボードを冷却して筐体の前後に風が抜ける構造になっている。

  • ポスト京システムのラック構造
  • ポスト京システムの筐体
  • ポスト京システムのラック構造(左)。ただし、展示されているのは中身はなくアルミ板で作られた箱である。2つのラックの後ろを突き合わせて筐体(右)に収容している

前回も展示されていたが、計算ノードは2個のCPUを搭載する比較的小さなボードとなっている。上側の2つのCPU用のコールドプレートは熱抵抗を減らすため、細かい溝を切るなどの加工を行っている。一方、下側の大きなコールドプレートは電源などの冷却であるので、単に水のパイプが上についているだけという簡易な構造になっている。

  • ポスト京の計算ノード

    ポスト京の計算ノード。2個の水冷のCPUコールドプレートと電源などの冷却用の簡易なコールドプレートが付いている

A64FXチップも展示されていたが、パッケージの周囲にバイパスキャパシタが見られない。パッケージ基板の裏側についているのであろうか。

  • A64 FX CPUチップ

    A64 FX CPUチップ

展示されていた諸元ではノード当たりのPeak Performanceは2.7TFlops以上となっていた。富士通の展示員によると、ポスト京システムのピーク演算性能は何ノード分の予算が付くかによって決まり、現状は誰にも分からないということであった。

  • ポスト京システムの諸元

    ポスト京システムの諸元。ノード演算性能は2.7TFlops以上となっているが、何ノードとなるかは予算によって決まるという

富士通の液浸冷却システムは、通常の19インチラックを横倒しにしてフロリナートに漬けるという構造である。したがって、19インチラックに搭載できる装置がそのまま液浸でき、展示ではPRIMERGYサーバ、ETERNUSストレージとGbit Ethernet Switchを搭載して液浸していた。

展示員にビジネスの状況はと質問すると、お客さんから引き合いが来るようになってきたとのことであった。

  • 富士通のフロリナート浸漬液冷システム

    富士通のフロリナート浸漬液冷システム

Aurora TSUBASAを前面に展示したNEC

NECはAurora TSUBASAの翼マークがあちこちに飾られた展示であった。

  • 翼マークが飾られたNECのブース

    翼マークが飾られたNECのブース

次の写真は、大型のA500-64の筐体の全面と背面の写真である。背面は中央に給排水の幹線があり、そこからパイプが肋骨のように伸びている。

一般に、薄型のサーバを使い、左から給水して右から排水するというものが多いが、この後の写真に示すように、 PCI Expressボードに搭載された8枚のベクタエンジンが横に並んでいるNECの実装では、うまくいかない。そのため、肋骨状のパイプ配置になったのであろう。

  • 大型のA500-64のラックの全面
  • 大型のA500-64のラックの背面
  • 大型のA500-64のラックの全面(左)と背面(右)。背面の水冷チューブは肋骨を思い出させる

Aurora TSUBASAの8台のベクタエンジンを搭載したユニットの写真を次に示す。1個のベクタエンジンは内部が見えるようにカバーが外されており、一見、ベクタエンジンが7個のように見える。

前に示した筐体には、このユニットが8段に積まれ、64ベクタエンジンとなっている。

  • 8個のベクタエンジンを搭載するユニット。

    8個のベクタエンジンを搭載するユニット。

次の写真がカバーのついていない裸のベクタエンジンボードである。ベクタエンジンチップと6個のHBM2 3Dメモリを搭載したインタポーザが銀色の枠の中に入っている。なお、6個のHBM2を搭載する製品は他社にはなく、Aurora TSUBASAは、業界トップのメモリバンド幅を誇る。

なお、このベクタエンジンチップを冷却する水冷コールドプレートはNEC製で、ディフュージョンボンディングという方法で、薄い金属板を接合して重ねていくという手法で作られているとのことである。そして、一部の薄板に溝を掘っておけば、重ねた後では、細かい水路がコールドプレートの中に残り、高効率の冷却ができるという。

  • ベクタエンジンボード

    ベクタエンジンボード。ベクタエンジンチップに6個のHBM2メモリを接続した業界トップのメモリバンド幅を誇る

日本のHPC業界で知らぬ人はいないHPCシステムズ

HPCシステムズはHPCのサーバやアプリケーションなどを販売する会社で、日本のHPC業界では知らぬ人はいないと思われる会社である。しかし、昨年は出展しておらず、多分、初めての出展ではないかと思われる。

  • SC18に出展されたHPCシステムズのブース

    SC18に出展されたHPCシステムズのブース

液冷用コンポーネントを展示したニッタ

私も知らなかったのであるが、ニッタは明治18年創業で133年の歴史を誇る会社である。元々、ベルトコンベアや動力伝達用のベルトを作るメーカーで、隣接分野にビジネスを広げて現在では700~800億円を売り上げる大きな企業である。

SC18では、液冷用の多層のパイプや継ぎ手を展示していた。ただ、同社のホームページには今年12月のSemicon Japanへの出展予定は載っていたが、SC18への出展が載っていなかったのは残念。

  • 液冷部品を展示していたニッタのブース

    液冷部品を展示していたニッタのブース

漏れがあるかも知れないが、筆者が見つけた日本の企業の展示はこの5社だけである。多分、中国の企業の展示の方が多いのではないかと思う。