経済性の高い機体だからできること

ATRでは自社製品について「ルート・オープナー」だと述べている。日本語にすると「新規航路の開拓者」だ。また、「当社のミッションは、離れたところにいる人をつなげること」とも述べていた。

つまり、従来なら収益性の観点から二の足を踏まざるを得なかったような航路でも、開設を実現できるだけの経済性があるし、それによって人の往来を活性化できますよ、というわけである。

なお、ATRでは官公庁需要も視野に入れているという。複数の国でATR72ベースの洋上哨戒機(MPA : Maritime Patrol Aircraft)を導入している事例があるから、「それを日本でも」となっても不思議はない。自衛隊だけでなく、海上保安庁でもその手の機体は必要である。

ただ、こちらの分野に関する具体的な話はあまり聞かせてもらえなかった。政府機関が相手となると、いろいろ機微に触れる部分もあるだろうから、おおっぴらにしづらいのはわかるが。

重点を置く分野と置かない分野

航空機メーカーは往々にして、最初の製品で成功を収めた後でラインアップの拡大を図るものである。ATRでも以前は、現行のATR42やATR72より大型である90~100席級の機体を構想したことがあったという。

しかしそれは取りやめとなり、現在はATR42とATR72の改良に注力する方針になった。経済性の改善はいうまでもないことだが、新技術の導入も図るという。

その一例として挙げたのが、パイロット用の視界拡張装置(EVS : Enhanced Vision System)、「ClearVision」だった。地方空港は、大空港と比べると航法援助施設が充実していないことが少なくない。すると、視界不良に起因する欠航が増加する可能性がある。それでは地域の足は守ることができない。

そこで、ATRが考え出したのがEVS。機首に電子光学センサーを取り付けて、そこから得た映像をパイロットのHMD(Head Mount Display)に投影する。さらに地形データベースなどの情報を加味することで、視界が悪いときでも状況を認識しやすくする。結果として欠航率が下がるし、欠航を心配して空路の利用を避ける人も減るだろう。

  • 電子光学センサーとHMDを組み合わせたEVSは、視界不良時の安全性を高めて、欠航率を引き下げる可能性を期待できる 資料 : ATR

STOL(Short Take-Off and Landing)性を強化したATR42-600Sの開発も、滑走路が短かったり周辺地形の条件が悪かったりする場面での運航可能性を増大するという意味がある。しかも既存モデルの派生型だから、高い共通性を維持できて経済的である。

これは、ATR42とATR72の間にも言えることで、サイズは違うが90%のスペアパーツが共通だ。すると、2機種が混在しても経済的に維持できる。だからこそ日本エアコミューターは、「1機だけATR72を導入して、需要が大きい路線に投入する」という決断ができたのだろう。

ステファノ・ボルテリ氏は「納入後のサポートも含めた長期的な関係を構築する用意がある。航空機メーカーにとっては信頼性が大事。満足度はもっと上げていかなければならない」とも述べていた。エアラインにとっては、とても重要な話である。