脳の秘密を解き明かすBlue Brain Project

HPEでは、こうした宇宙でのスパコンの活用を進める一方、世界各地のあらゆる分野でのスパコン活用にも貢献しようとしている。そのうちの1つが、EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)のBlue Brain Project(BBP)への支援だ。

同プロジェクトは、2005年にEPFLとIBMが共同研究プロジェクトとして開始した脳の秘密を解明しようという 取り組み。IBM Blue Geneベースのスパコン「Blue Brain」を用いて研究が開始されたが、2017年末に行なわれた次世代スパコン「Blue Brain 5」向け公募を契機に、HPEが契約を獲得。同氏も参加して、「HPE SGI 8600 System」をベースにしたシステムの開発が行なわれた。

「Blue Brain 5は、これまでの研究成果を継続して活用するために、Blue Geneプロセッサをエミュレートできる必要があった。そのため、開発の第一歩は、ユーザーがどのようにこれまでのBlue Brainシリーズを活用していたかを知る必要があった。それが、今回のシステム構築の作業の半分を占めたが、それを経験したからこそ、スパコンを1から作り直さなくても、ノードの再設計で要求された性能を達成できるという結論に至った」(同)とするBlue Brain 5の性能は、ピーク演算性能1.06PFlopsを提供する。システムの構成は、調査の結果、「メモリ帯域幅」「高速なグラフィック処理」「汎用的な処理」「高速ストレージI/O」という4つのユースケースに切り分けられることが判明。それぞれに対応するノードを構成し、EDR InfiniBandで接続するなどにより、求められる性能を実現することができたという。

「Blue Brain 5は拡張性も考慮して作られたシステムだ。今後、研究の応用範囲が広がるにつれて、要求性能が向上していくだろうが、それに併せてアップグレードしていくこともできる」と柔軟性も兼ね備えていることを強調する一方で、「まずは導入したシステムが信頼を得られるようにすることが最優先」とし、顧客の成功が最優先事項であるとした。

HPEのスパコンがフォーカスするもの

脳のニューロンのようなミクロなものから、宇宙のようなマクロなものまで、幅広い分野にスパコンを提供するHPE。同社は、従来のx86サーバのみならず、Armベースのサーバプラットフォーム「HPE Apollo 70 System」の提供も開始するなど、さらに応用範囲を広げようとしている。

こうしたさまざまな取り組みの背景について同氏は「HPEのフォーカスするところは、顧客が何をやりたいのかを理解して、その要求に寄り添っていくことだ。顧客がどういったことを実現したいのかを、見せてくれれば、我々はBlue Geneを模したスパコンであっても構築できることをBBPでは示すことができた。金融業界ではAIの活用に期待を寄せているし、宇宙では自立的に稼動できるシステムが、BBPではニューロンレベルをエミュレートする能力を求められた。このほか、最近の取り組みでは、農業における農薬散布に画像認識を活用して、雑草にだけ散布する仕組みを構築するといった具合に、それぞれの分野で要求してくる目的が異なる。こうした小さな取り組みを積み重ねていくことが、HPEの資産になっていく。そうした意味では、重視するのは、さまざまな分野に応用していけるインテリジェンスシステムをどう実現していくかだ」と、必要とするインテリジェンスを提供していくことこそがHPEの使命であるとする。

  • AIを活用した農薬散布

    AIを活用した農薬散布の様子 (資料提供:HPE)

また、インテリジェンスシステムと普通のコンピュータの違いとして、「ハイパフォーマンスで、リアルタイムで対応が可能で、インテリジェンスが介在する。そして顧客のワークフローにマッチするように設計されている。これらを総合したものがHPEのインテリジェンスシステムだと言える」と、自身の考えを披露。日本でも、こうした考えに興味を持ってくれた人が、HPEに声をかけてくれれば、きっと面白いことができると思うとした。

インテリジェンスシステムにSpaceborne Computerに搭載したような自律化を加えると、より高度な自律判断が可能な新たなスパコンが誕生することとなる。その一方で、HPEはそれぞれの顧客に応じて特別なものを作っていくのではなく、常に最新のものにアップデートできる汎用性を持たせることも忘れてはいないとする同氏。Exascaleの実現に向け、世界がしのぎを削る状態であるスパコン業界だが、その高い性能を活用する人が一部の研究者や企業に限られてしまっては意味がない。そうした意味で、より幅広い分野へとスパコン活用のすそ野を広げようとする同社の取り組みは、今後の新たなスパコン活用の時代を切り開く第一歩になる可能性がでてきた。