イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXは2018年7月13日、開発中の有人宇宙船「クルー・ドラゴン」が、最後の大きな地上試験を終え、打ち上げが行われるフロリダ州ケネディ宇宙センターに到着したと発表した。
今年8月にも無人で試験飛行を行う予定で、順調に行けば今年末にも、有人の試験飛行が行うことが計画されている。
しかし一方で、開発や認証の遅れを指摘する声もあり、ことによっては米国の有人宇宙計画全体を揺るがす事態になる可能性もある。
クルー・ドラゴン
「クルー・ドラゴン」(Crew Dragon)は、スペースXが開発中の有人宇宙船である。
スペースXといえば、打ち上げたあとに機体が帰還し、再使用ができる大型ロケットの「ファルコン9」や、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」、そして国際宇宙ステーション(ISS)に補給物資を運んだり、ISSで生み出された成果物などを地球に持ち帰ったりできる上に、再使用もできる「ドラゴン」補給船といった、数々の革新的な機体を生み出してきた。
そんな同社が開発する初の有人宇宙船クルー・ドラゴンもまた、さまざまな革新的な要素がふんだんに取り入れられている。
たとえばドラゴン補給船と同じく、機体は10回程度の再使用ができ、運用コストの低減が図られている。
また、機体の側面にはロケット・エンジンを装備しており、大きく張り出したエンジン部分は、他の宇宙船では見られない、外観上の大きな特徴にもなっている。このエンジンは打ち上げ時の脱出システムとして使われるほか、将来的にはファルコン9のように、エンジンを噴射しての着陸に使うことも考えられている。
さらに船内も、コクピットの全体にタッチ・スクリーンが採用され、機械式のスイッチがほとんどないなど、近未来的な雰囲気を醸し出している。搭乗時に飛行士が着る宇宙服(船内服)もまた、まるでSF映画の衣装として出てきそうな、従来にはないスタイリッシュな姿かたちをしている。
クルー・ドラゴンには最大7人が登場でき、地球とISSとの往復から、月や火星へも飛行できる能力をもつ。さらに宇宙飛行士だけでなく、訓練は必要なものの、一般の宇宙旅行者を運ぶこともできる。
スペースXの目論見とNASAの新方針の融合
スペースXが有人宇宙船の開発を行っている背景には、いくつもの理由がある。
もともとスペースXは、マスク氏が地球が滅亡する危機に備え、火星などの他の天体に人類を移住させるために設立された。つまり同社が有人宇宙飛行を行うことは、設立当初からの既定路線だった。
それとは別に、あるいは並行する形で、2005年に米国航空宇宙局(NASA)は、「民間にできるできることは民間に任せる」という方針のもと、ISSへの物資の輸送を民間企業に任せる、つまりアウトソーシングをする計画を立ち上げた。
スペースXはこの計画に、ファルコン9とドラゴン補給船の開発を提案。他の企業からの提案と合わせて審査が行われ、最終的にスペースXとオービタル・サイエンシズ(現ノースロップ・グラマン)が選ばれた。そしてスペースXは、NASAからの資金提供や技術協力をもとにファルコン9とドラゴン補給船を開発。現在もノースロップ・グラマンとともに、ISSへの物資補給を定期的に行っている。
さらにNASAは2010年に、補給物資だけでなく、宇宙飛行士の輸送も民間に任せる計画を立ち上げた。ちょうどスペース・シャトルの運用終了が目前に迫っていたこともあり、今後はISSのある地球低軌道への飛行士の輸送は民間に任せ、その代わりにNASAは、より難易度の高い月や火星への有人飛行に力を注ぐという狙いがあった。また、米国の宇宙産業を育て、より強靭なものにするという狙いもあった。
スペースXはこれに、ドラゴン補給船を改良して人が乗れるようにした機体を提案。そして審査の結果、大手航空宇宙メーカーのボーイングとともに選ばれた。そしていくつかの設計変更を経て、有人版ドラゴンこと、クルー・ドラゴンが生まれようとしている。
現在のところ、クルー・ドラゴンの打ち上げは、まず今年8月に無人の試験飛行を行い、12月に有人の試験飛行を実施する予定となっている。一方、ボーイングが開発している「スターライナー」宇宙船は、同じく8月に無人の試験飛行を行い、有人の試験飛行は11月に予定されている。
この試験飛行の結果を受け、NASAが最終的な審査を行い、それをクリアすれば、正式に宇宙飛行士の輸送サービスが始まることになる。その時期は、クルー・ドラゴンは2019年2月、スターライナーは同1月に設定されている。
シャトル引退後、米国はISSへの宇宙飛行士の輸送をロシアの「ソユーズ」宇宙船に委ねざるを得ない状況が続いているが、クルー・ドラゴンとスターライナーが誕生すれば、その状況から脱却し、「米国の地から、米国の宇宙船で、米国の宇宙飛行士を打ち上げる」ことが復活する。