設定したKPIは認知のみ。数字よりも認知を
違和感を与え、記憶に残る動画を配信した人見氏。再生回数以外には、どのような成果が得られたのだろうか。
「動画配信を流していた期間中は、直近の土日と比較して、ネット注文での売上が約150%増。新規会員獲得数は約1.7倍、注文率も約1.5倍に増えました。ただし、今回のキャンペーンで設定したKPIは認知だけ。どれだけ見てもらえるかということを目標にしました」
キャンペーンの目標は「認知」のみに絞った。人見氏はその理由を次のように話す。
「実際、外食におけるデジタルマーケティングは、費用対効果が見合うものではないと考えています。直接的に売り上げに結びついたかかが分かりづらいためです。しかし、見合わないからといって、やめるという選択肢はありません。少しでも、モスのロゴやサービスに触れていただき、たまには行こうかなと思ってもらうことが重要なのです」
ネット注文への誘導は数字を把握しやすいが、広告を見て実店舗に足を運ぶというケースも多い。そのため、数字だけでは判断できないというわけだ。
「『いいね!』なども気にしないようにしました。本当に“いい”と思ってつけてくださっているのか判断できませんからね。コメントの有無も同様です。批判的なコメントをいただくこともありました。ただ、少なくとも、時間を使ってコメントを入力してくださっているわけですから、記憶には残っているはずです。表現などは改善の余地があるかもしれませんが、いつものモスとどこか違うという情報を届けられたので、今回の目的を考えると成功したと言えるでしょう」
適切なタイミングで「食べたい」を後押しできるように
不特定多数に広告を配信した場合、批判的なコメントなどは避けて通れない。企業の広報やマーケターが不安に思うことは“炎上”なのではないだろうか。人見氏は、炎上についてどのように考えているのだろう。
「最初からバズらせようと狙いすぎると、炎上してしまうのではないでしょうか。リスクはどんな投稿にも存在します。100人中100人がいいと思うようなものはなく、どんな内容でも不快に思う人はいるかもしれません。大事なのはそのような状況を理解したうえで、目的をもって配信していくこと。もちろん『いいね!』は多いほうがうれしいですよ。ただ、それが一番の目的ではありません」
すべての人を納得させる内容にすることは難しい。ターゲットをしっかりと明確化し、どのようなメッセージを届けるのか。それが重要なのである。
「今後も基本的な考えは変わらないと思います。スマホで動画を見てもらって、記憶してもらえるような施策を続けていきたいですね。ただし、食べてもいいかなと思えるタイミングで広告を出すために、配信の効率は高めていければと考えています」
前日の夜に見た広告は覚えている人は少ない。かといって朝の通勤時にランチのことを考えている人もそこまで多くない。ランチで一番意識してもらえる広告配信の時間帯はやはり昼前。それも、本当に効果的な時間は10分間に満たないのだという。
「12時前には効きやすい広告も、13時を過ぎれば効果がほとんどなくなります。その時間を過ぎてしまうと、また翌日の昼前まで待たなければなりません」
人見氏は外食における広告配信の難しさを語る。
「モスバーガーが1つ100円だとしても、『やった、10個食べよう』と思う人はいないでしょう。また、いくら好きでも毎日モスバーガーを食べる人も少ないと思います。同じものだけ食べていると飽きてしまう外食では、いくつかのお店をローテーションして使っている人が多いのではないでしょうか。私は会社の近くを2週間くらいのサイクルでローテーションしていますが、人によって周期は異なるでしょう。なので、将来的には、パーソナライズされたタイミングでうまく配信できるようになればいいですよね。いろいろ試してみながら、おもしろいことをやっていきたいと考えています」
確かに、毎日同じランチメニューを選ぶ人は珍しい。ちょうど食べたいと思うタイミングで、記憶に残る映像を届けることができれば、さらに高い効果を発揮させることができるはずだ。モスの動画での挑戦は、まだまだ続く。