2つ目は、コクヨ ワークスタイル研究所 所長である若原強氏が行った講演「2030年の働き方から考える、デジタルアップデートの必要性」について紹介しよう。
帳簿等の紙製品からキャビネット制作へと手を広げた後にオフィス家具全体、さらにはオフィス空間を手がけるようになったコクヨは、近年ではワークスタイルの提案も行っている。そのため、オフィス提案を行う時にはまずワークスタイルから考える習慣があるという。そうした立場から、講演ではテクノロジーによって働き方がどう変わるかという視点ではなく、今後求められる新しい働き方を実現するためにはどんなテクノロジーが必要になりそうかという視点で語られた。
また、将来的な働き方を考える中で必要になるのが「いいとこ取り」という考え方だという。具体的には、自然豊かな土地で暮らしながら都会に住む人と同じような仕事をすることなどだ。現在は実現が難しくとも、テクノロジーの進化によって将来的には両立が可能になると考えられる。複業を持つことや、転職等によって多彩なキャリアやスキルを持つことが普通になる世の中で、どのようなテクノロジーが求められるのかについて、若原氏は4つの切り口を紹介。自社で発行しているアニュアルレポートに収録されている「WORK IDEA 2030」からの引用として、それぞれに対して2030年に存在するだろうニーズと、そこへ至る現在の兆しをそれぞれ紹介した。
「アニュアルレポートでは、4つの切り口を設けている。1つは自分はどう働くのか。自分としてキャリアをどうつむいでいくか、仕事や暮らしをどう考えて行くのか。2つ目は、個人が他人、組織やチームや協業相手とどういう風に関わりながら仕事をしていくのか。3つ目は個人が組織で働きながら、街やエリアとどういう関係性を持ちながら過ごしていくのか。最後の自分をどう見つけるかは、自分がどう働くか、他人とどう働くかというような話は選択肢が増えていくことだが、そもそも自分のやりたいことがないと選択肢の中で溺れることになる。ふんだんに生まれてくる選択肢や自由を謳歌するために、まず自分をどう見つけるかも働き方を考える上で大事かと思っている」と若原氏は切り口について解説した上で、各切り口について掘り下げを行った。
自分がどう働くかについては、場所・時間・所属といった前提から解放された結果増えるのは、ポートフォリオワーカーだと紹介。人生の目標を達成するために複数の仕事を分け、金融商品のポートフォリオを組むように組み合わせる働き方だ。そうした場合、自己紹介も従来のような1枚の名刺では行いづらくなる。それを助けるテクノロジーが求められるだろうとした若原氏は、現在すでにある新たな自己紹介につながるテクノロジーとしてソーシャル・レーティングと、スキルを会員情報として登録することでニーズとマッチングさせているコワーキングスペースの例を紹介した。
他人とどう働くかについては、ポートフォリオワーカーのような人が増えることで多様性がさらに広がることを受け、価値観やキャリアの違う人がチームとして成果を生み出すためのテクノロジーが求められるとした。解決策として現在ある兆しは2つが挙げられた。
他人のスタイルを理解することで多様性を受け入れる方法としては、VRジャーナリズムのようにVRを利用して、他者の気持ちを理解しやすくする方法だ。一方で属性を平準化することで多様性による差を消してしまうような方法もあるとして、差別につながり得る要素を排除した人材紹介サービス「Blendoor」が紹介された。
街・地域とどう働くのかという点については、いろいろな地域で暮らしながら働くというスタイルが増える中で、家族ぐるみでどうそれを実現するかという視点から語られた。特に子供をもつ家庭の場合について、子供の教育の多拠点化が求められるだろうとし、現在すでに行われている秋田県の教育留学制度や、徳島県のデュアルスクールを紹介。今後はテクノロジーで解決の余地が多く、家族ぐるみの多拠点化が実現されるのではないかと語られた。
自分をどう見つけるかについては、個人と企業のマッチングがより高いレベルで行われるようになる必要があるだろうとした上で、将来的に登場するニーズの1つとして新卒採用時に複業を前提として複数企業への同時入社した上で指向性を確かめるような考え方の登場を示唆した。現在の兆しとしては、企業側の採用活動としてAIマッチングが増えていること、AIを利用した面接での効率化が行われていることなどが紹介された。
若原氏は講演の末尾を「これらはあくまで1つの例。コクヨはあまりテクノロジーに強い会社ではないが働き方はすごくいろいろ考えているので、働き方×デジタルアップデートに興味のある方とぜひ一緒に考えさせていただきたい」と結んだ。