AI予測で新規インストール数が3倍、売上が2.4倍に

この2つの施策では、驚くほどの差を確認することができた。まず、プッシュ通知を利用したクロスセル誘導では、ランダムに抽出した場合に比べAIで抽出した場合は約2.7倍反応がよかった。また、実際にお薦めされた作品を購入したユーザーの割合(CVR)も、ランダムに抽出した場合に比べ、AIで抽出した場合は約3倍になった。AIの予測が売買金額と取引量の増加に直接的に貢献したわけだ。

平木氏は「既存のユーザーに食品をクロスセルできることがはっきりと確認できました。リピート購入が大きい食品で効果を確認できたため、施策を継続することで、売上の継続的な向上も見込めます。食品のほかにも、リピート購入の高いバッグや財布などでテストを実施し効果を確認しています」と評価する。

バッグや財布は購入単価が高いため食品と同じような数値にはならない。ただ、購入単価が高い分、新規購入率やリピート率を向上させれば売買代金や取引量増加への寄与度は大きくなる。そのためには、施策の結果を見て、AIの予測精度を上げていくことが求められる。

また、池田氏は、リエンゲージメントの効果について「プッシュ通知は1日1種類を同じメッセージで届けていますが、ユーザーの中には欲しくない情報だとして通知を切ってしまう方もいます。minneのエンゲージが弱まる懸念があったのですが、欲しいと思う情報を届けることでエンゲージメントを高めことができるようになります」と話す。

一方、アプリのインストール広告では、比較対象のためにセグメントや配信手法の異なる キャンペーンを同時配信をした。 その結果、AIXONで抽出したデータを活用したキャンペーンは、 詳細なセグメントを設定したキャンペーンと比較してそれぞれ2~10倍のインストール数を獲得した。 また、AIXONを活用したキャンペーンでインストールしたユーザーは購入意欲が高く、 ROAS(広告費回収率)も他のキャンペーンと比較すると、それぞれ2~4倍と今までの配信構成では取りこぼしていた優良な新規ユーザーを効率的に獲得することができた。

AIXONを導入する前も類似拡張を用いた配信は行っていたが、効果があまり見られず停止してい た。 しかし、AIXON導入後は獲得効率を改善しながらもインストール数は3倍まで拡大し、その結果、売上への寄与金額も2.4倍まで増加させることができた。

「これまでキャンペーンを実施するグループは興味関心ごとにセグメントを分けていましたが、拡大することが難しい状況でした。新規インストール数や売上への寄与金額が数倍になることを確認できたのは大きな成果です。仮説検証を進めていけば、さらに効果を拡大することができると思っています」(平木氏)

  • 左から、minneのスマホアプリの画面、PCサイトの画面。食品については、クロスセルできることを確認した

ものづくりの可能性を広げ、誰でも創造的になれるように

分析の仮説検証は、AIXONのAIテンプレートを使うことで容易に実現することができるという。例えば、食品カテゴリーで実施したクロスセル誘導施策と同じ施策を、画面をクリックしていくだけで簡単に別のカテゴリーに対して実施できる。また、AIが抽出したセグメントをほかの施策で利用したり新しいセグメントを抽出したりすることもできる。

AIを新しい分野に適用することも容易だ。今後の施策として検討しているのは、プッシュ通知メッセージの最適化だ。一点モノの作品から受ける印象がユーザーそれぞれで異なるように、受け取るメッセージが受ける印象もユーザーそれぞれで異なる。

「誰にどんなメッセージを送れば効果があるのかをABテストを実施して確認しようとしています。今は同じメッセージでプッシュ通知していますが、今後は、例えば、イヤリング、化粧品、パンといった興味関心を持っているとAIXONで分析されたユーザーはセグメントごとにメッセージを変えていこうと思っています」(池田氏)

こうした施策の実施や検証が簡単にできるのはAIXONの大きな魅力だという。これまでエンジニアやアナリストに頼っていた分析作業の多くをマーケティング担当者自身でできるようになった。また、他のシステムとの連携も、一度作業を済ませてしまえば、最新データを常に利用できるようになる。特別な分析を行うたびに何か新しい仕組みを実装する必要はなく、費用対効果も高くなる。

AIではしばしば「なぜその答えがでるのかわからない」ことが利用者の悩みになりやすい。その点、AIXONは予測時に重視した項目を画面で人間が確認することができるようになっている。そのため、予測の理由を探るヒントにすることもできる。

「AIがなぜその候補を選びだしたのかは正確にはわかりません。ただ、マーケティングでよい結果が出たということは、すなわちそれがAIを活用する意味なのだと思っています。AIを使っても、仮説を立て検証していくのはわれわれであり、クリエイティブなマーケティング活動をするのもわれわれです。そういった点から、AIの活用をこれからも続けていくつもりです」と相田氏はこれからを展望する。

minneのモットーは「ものづくりの可能性を広げ、誰でも創造的になれる」だ。作家一人ひとりの違いや作品1つ1つの魅力を見つけ、それをユーザーに正しく届けるうえで、AIはminneの新しい力になっている。