ECU - 中央に集約させるか、分散させるか
昨今の自動車のコンポーネントには、インテリジェンスやエッジ処理が加わるようになりました。このことは、自動車に搭載されるECUの数が急増したということを意味します。一方で、コンポーネントの設計ではモジュール化が進み、不具合の伝搬は抑えられる方向に向かうはずです。NIは、自動運転のレベル5に向けて全力で取り組んでいます(ちなみにAudiは、2019年版の「Audi A8」は世界初のレベル3の自動運転車になると発表しています)。こうした動きに伴い、さまざまなセンサシステムから取得したデータの融合が進むことになるでしょう。そのことが、ECUを分散化させる傾向に対して影響を及ぼすことは間違いありません。
今後は、フュージョンECUと呼ばれる形態が増加すると考えられます。これは、1つの中央集約型ECUの下に複数のサブシステムを配置するというものです。プロセッサの中央集約化を図ることにより、ソフトウェアの更新、データアグリゲーション、データストリーミング、コスト、クリティカルパスに関するテストが容易になります。この点が、自動車メーカーにとっての差別化のポイントにもなり得ます。完全統合型でエンドツーエンドのセンサシステムを自社で開発するのか、Tier 1サプライヤに委託するのかといった振り分けが行えることが1つの要因です。例えば、多くの自動車メーカーは、電気自動車について、ブレーキ、充電、パワートレインに関するIP(Intellectual Property)を1つのECUに集約することに注力しています。そして、業界に対しては、テストの負荷の軽減、コストの削減、負担の分散に役立つコモディティ化されたECUを提供してくれることを期待しています。それに向けては、バリューチェーン全体が、システムをその方向に進化させ、標準的な考え方を共有する方法を理解することが重要です。
ECUに組み込まれたソフトウェアの動作を検証するのは、より難易度の高い問題になります。これに対処するには、HILベースのテスタを短期間で開発することが重要になります。現在、HILシステムについてはある一社の製品が事実上の業界標準となっています。ただし、同社の製品は、その規模の小ささと柔軟性の欠如が原因となって、いずれ限界を迎えるはずです。同社のビジネスモデルは、システム全体をエンドツーエンドで構築するというものであり、非常に魅力的に見えます。実際、このモデルは従来は十分に機能していたのですが、その状況は2つの重要な事柄によって変化しつつあります。1つは、市場における物事のペースが大きく変化したことにより、ブラックボックス型のテスタが非常に高価なものになったということです。変化が起きるたびに新たなブラックボックスを構築しなければならないからです。もう1つはADAS(先進運転支援システム)が進歩したことです。ECUによる処理の量が増え、さまざまなサプライヤからの情報が統合されるようになるに従い、その中に含まれるノウハウやIPは従来以上に重要なものになります。仮に、1つの自動車メーカーが重要なIPを所有していてそれを非公開にしたとすると、ブラックボックスは機能しなくなります。結果として、テストシステムとしては状況に応じて変更できるものが求められるようになります。
SUBARUは、柔軟性の高いモジュール式プラットフォームを活用することにより、上述したような懸念を解消しました。最終的にはテストの実施にかかる時間を1/20(見積値)に削減することに成功しました。
歴史的に見ると、エンジン制御の分野では、上述したレベルでIPを社内で専有するということが行われていました。しかし、ADASは、イノベーションと所有に関するクリティカルパスだという意味で、「新たなパワートレインである」と比喩することができます。この領域で1つの会社がIPを専有することは、従来以上に重要な意味を持つことになります。将来に向けた柔軟性の欠如と、カスタマイズに対応するためのサービスの大幅な価格上昇が重なれば、技術者はほかのソリューションを探すことになるでしょう。さらに、コストをベースとする規模の問題も存在します。現在、HILシステム向けに事実上の業界標準となっている製品は小規模のサブシステムに対しては適切なものだとは言えません。すでに比較的小規模だと考えられるシステムであっても、かなりの量のソフトウェアが組み込まれているからです。