次に、ユーザーからみた3Dプリンタの活用事例を紹介するセクションへと移った。まず登壇したのは、建築の分野から隈研吾設計事務所の村井庄一氏。同事務所が設計した世界中の建築物を紹介したのち、3Dプリンタを使用した実例として、ミラノデザインウィーク2018(ミラノサローネ)にダッソー・システムズとのコラボレーションで出展した「Breath/ng(ブリージング)」を紹介した。
同作品は、空気の浄化機能を持つ「the Breath」というファブリック素材を活用したインスタレーションで、布を折り曲げることで強度を高め、かつ汚染した空気を最大限に吸着できるように表面積を広げることをコンセプトに掲げた作品だ。
HPの大判プリンタを用いて原寸大スケールの紙で折り方を熟考し、どんな形状が最も安定し表情が豊かになるのかを検討したのち、ダッソーの3D CADソフトウェア「CATIA」で作品を再現したところ、複雑な形状ゆえに布を固定するワイヤーのジョイント部品が40種類以上も必要であることがわかったという。
そこで、3Dプリンティングで解決するためにDMM.makeに相談したところ、MJF(マルチジェットフュージョン方式)という強度を出せるシステムがあることを聞き、依頼したという。CADで設計したデータを提出してから納品されるまで、わずか10日程度という短期間で製作され、しかも精度が非常に高かったため、修正なしそのまま利用でき、作業時間が大きく短縮できたという。村井氏は、これが3Dプリントサービスに依頼した最大のメリットだったと述べた。
続いて、芸術の分野からアーティストの後藤映則氏が登壇した。同氏は先端のテクノロジーと古くから存在する手法やメディアを組み合わせ、目に見えないつながりや関係性を捉えた作品を展開し、映像の手法そのものや映像の拡張表現を作っている。
今回、3Dプリンタを使った作品として紹介したのが「toki-」シリーズ。人間の歩行といった連続動作を2Dで輪郭化したのち3Dへ展開し、CGでドーナツ状につないで3Dプリントすることで、時間を形象化したもの。作り方としては、まずは人が歩く様子を2Dの時間軸を分解し、3Dでの時間軸への変化させる。それを一周させたデータを3DCG化し、時間軸をモーフィングでつなげて3Dプリントすることで、人が歩く動きと時間が入ったメッシュ状のオブジェクトができあがる。これを回転させてプロジェクターで限定的に光を当てることで、人が歩いているようなアニメーションが現れる——という仕組みだ。人の数や時間の流れは光のあて方によって変化し、複数の光をあてることで過去や未来の姿が浮かび上がる。このほかにも、バレリーナの踊る様子や移り変わる数字などの作品が紹介された。
このほかにも、米国テキサス州オースティンで開催された「ART PROGRAM 2017」の世界公募で採用された「ENERGY」という作品では、白いメッシュ状のオブジェクトを天井から吊り下げ、横のプロジェクターからの線となった光がその物体を通過すると、その場所に入っている動きが出現する。さらに、長野県茅野市の「八ヶ岳 JOMON ライフフェスティバル」においても、3Dプリンタを使った作品を出展し、9月までは国宝展示室に展示されているとのことだ。いずれの作品も、3Dプリンタによる出力をDMM.makeに依頼したということだ。後藤氏は今後、東京オリンピックが近いこともあり、さまざまなアスリートの動きを取りこんだ大がかりな作品を作りたいという構想を語り、プレゼンテーションを締めくくった。