フランスに本社を置くスーパーマーケットチェーン「カルフール」は、台湾におけるオンライン事業で前月比収益20%超の成長を続けるほどの急成長を見せている。台湾でゼロからECをスタートさせてわずか3年。いったいどのような取り組みによって事業を軌道に乗せたのか。同社オンライン事業の担当者に話を聞く機会があったので、本稿ではその様子をお伝えする。

最大のハードルはEC不要説を唱える上層部の説得

2015年、カルフールに入社したジルベルサ・プレスコット氏が、まず取り組まなければならなかったミッションは「台湾における電子商取引(EC)プラットフォームの開発」だった。

セブンイレブンやファミリーマートといった日本でも馴染みのコンビニが続々と進出している台湾では、大型店舗がメインのカルフールとは相反する「ミニマート」が人気を集めている。実店舗の競争が激化するなか、新しいユーザーにリーチしていくためにはオンラインへの進出が必要だったわけだ。

すでに103もの実店舗を展開している台湾のカルフールだが、オンラインの販売は未経験。社内に専門家がいるわけでもない。どのようにすればECで成功できるか考えたときに、外部のパートナーに頼るという結論に至ったのは自然な流れだっただろう。

結果として同社は、2016年10月、台湾に本社を置くAIスタートアップ「Appier」が提供しているマーケティング分析ツール「CrossX Re-marketing AI」を導入するのだが、そこに至るまでの道のりは平たんなものではなかった。

カルフール 電子商取引事業開発マネージャーのジルベルサ・プレスコット氏

カルフール 電子商取引事業開発マネージャーのジルベルサ・プレスコット氏

「Appierとパートナーを組むことに決めたのは、献身的にアイデアを次々と提案してくれたことが大きかったですね。我々の課題に対して、辛抱強く対応してくれました。たとえば、私たちはサイトの構築を中国のパートナーに依頼していたのですが、Googleなどが使えない中国と台湾では環境が大きく異なり、度々問題が発生していました。そのような問題に対して、Appierの担当者はすぐに中国へ連絡を取ってくれるのです」

ジル氏は、Appierとの出会いを振り返る。

「ただ、社内の説得は非常にハードでした。私はAIに対して抵抗がなく、トレンドとしても導入が必須だと考えていますが、保守的な考えの上層部からデジタルマーケティングに対しての投資にOKをもらうのは容易ではありません」

彼女は早い段階からAppierを頼りにしていたようだが、カルフール社内では反対の声が消えなかったという。上層部は物理店舗のみを数十年担当しているようなリテールマインドの持ち主。「オンライン自体やる必要がない」と言わるほど、ECに対する嫌悪感が渦巻いていた。「小売=リアル店舗」だというイメージが刷り込まれているベテランたちにとってみれば、Webサイト構築のための投資は資金の無駄遣いでしかないのである。

「そんななか、デジタル化への一歩を踏み出そうとしない上層部に対して、Appierはただサービスを提案するだけでなく、彼らに納得してもらえるよう、辛抱強く対応してくれたのです。機能や効果について丁寧にプレゼンを行い、短いトライアルを実施して、データの分析やマンスリーレポートの制作なども行ってくれました」

  • カルフール 電子商取引事業開発マネージャーのジルベルサ・プレスコット氏

「CrossX Re-marketing AI」を使うことで、何をどのように実現することができるのか、上司への説得は根気強く続いた。その効果もあって、ついには、保守的な上層部も理解を示し、首を縦に振ってくれるようになったのだ。

「定期的にレポートをボスに提出し続けていたこともあり、Appierが理由で売り上げが上がったという成果を証明できたことが大きかったと思います。結果的にAppierとは長期契約を結ぶことができました」

数字的に効果が出ていることがわかれば、上司も拒否することはできない。継続的にレポートを出し続けたことで、時間の経過とともに成果が上がってきていることが伝わったのだろう。

「もちろん、提供するサービスの品質も重要ですが、『必要なときにすぐ来てくれるか』『しっかりサポートはしてくれるのか』といった積み重ねによって生まれる信頼関係が、何よりも重要なのではないでしょうか」

デジタルマーケティングの効果を検証するには、時間をかけてデータを分析していかなければならない。そして、長い付き合いをするためには、どのような最先端テクノロジーを導入する場合であっても、お互いの信頼関係が必要なのだ。