デジタル・トラスト(デジタル時代の信頼)がすべて

グローバルでは、価値ある個人情報へのアクセスは、適切にデータを扱うことができる組織だけに許されるという傾向が強まってきており、もはや従来のように誰もが簡単にデータへアクセスできる時代ではなくなってきている。デジタル・トラスト(デジタル時代への信頼)がすべてであり、それを維持・運用できる組織だけが社会から信頼を勝ち取り、持続可能なビジネスを実現できる時代と言えるだろう。

アクセンチュアが2016年に実施した調査(*2)によると、過去12カ月の間に狙われたサイバー攻撃の3分の1が情報漏洩に至っていることがわかった。このような状況下で、プライバシーを巡る権利に対して、消費者の関心が高まりを見せるのは当然とも言える。

一方、消費者はデータの提供と引き換えに確実な見返りを期待している。アクセンチュアのデジタル・トラストに関する調査(*3)によると、3分の2の消費者は、個人情報の知覚価値価格(売れると思われる価格帯)に相当すれば、企業へ個人情報を提供することがわかった。さらに、消費者の4分の3は、特定の商品やサービスの供与と引き換えに自身の誕生日データを提供していたほか、4分の1がより良いサービスを受けるために、企業側に個人情報を提供していた。

こうした傾向を企業側の視点でとらえれば、顧客へ提供するインセンティブは、ユーザー・インタフェースの改善から、最新の製品情報の提供、あるいは関連企業からのサービス提供に至るまでさまざまに存在する。とりわけ個人に最適化(パーソナライズ)したサービスや交換条件(ポイントなど)の提供はさらなる顧客体験の実現につながる。

顧客が自身の個人データに対する価値をどのようにとらえているかを見極めることは、企業がデータ利用に対する消費者からの支持を得るために今後ますます重要となるだろう。企業が適切なデータ活用を推進することは、自社に対する支持を得ることでもあり、消費者からのロイヤリティ獲得にも寄与する。

  • デジタル・トラストを巡る消費者意識 資料:Accenture「A New Slice of PII, with a Side of Digital Trust」(2017)

*2:出典 Accenture「High Performance Security Report」 (2016年)

*3:出典 Accenture「Digital Trust in the IoT Era」 (2015年)

デジタル技術を使ったビッグデータのデータマイニングによる個人行動のターゲティング

アクセンチュアの最新調査(*4)によると、個人データは量および種類ともに年々増え続け、2020年にはデジタルシャドーだけでも1人当たり約2.5GBもの個人情報になることが予測されている。デジタルシャドーとは、PCやスマートフォンなどの端末を通じて蓄積された検索内容、Webサイトの閲覧記録、さらにはオンライン・ショッピングでの閲覧や購入履歴などのデジタル空間に残る活動記録を指す。

*4:出典 Accenture「A New Slice of PII, with a Side of Digital Trust」 (2017年)

さらにバイオメトリクスや、ビジュアルデータ、ゲノミクス(ゲノム科学)、各種のデバイスデータが合わさり、個人データの総量は確実に増大することが見込まれている。将来的には、より精密な個人の消費行動などに関するデータマイニングによるプロファイル化により、個人別の好みが一層精緻に把握されるようになっていくだろう。

そうしたデータ量の増加、マーケティングの精緻化に伴い、データ保護やデータプライバシーの問題がより注目を集め、世界的な優先課題となっていくことは間違いない。消費者側も個人データ保護の重要性を一段と認識し、その結果として、企業を自発的に選択していく傾向が強まることが予想される。

企業側は、消費者から選ばれるために、信頼に足るセキュリティ管理態勢を構築し、個人情報や行動に関するデータの保管を安全かつ適切に行なっていることを社会に示す必要がある。また、消費者側も個人情報の提供と引き換えに、ストレスのない取引プロセスや、個人別のディスカウントの獲得など、快適な顧客体験という付加価値を、企業側へ期待するようになっていくだろう。

組織は、こうした環境変化を視野に、これから始まるデータ保護規制強化の時代に対し、デジタル・トラストを積極的に高めていくべきである。このたびのGDPRをはじめとするデータ保護規制は、組織の顧客データないしは従業者データの取り扱いを見直す良い機会と言える。

データの規制に対して組織を挙げて対応する際は、単にITシステム投資やコンプライアンス遵守を負担としてとらえるべきではなく、消費者からの継続的なロイヤルティ獲得と提供価値の最大化に向けた好機と認識し取り組む必要がある。そのためには、関係する担当者や組織に対し、最終ゴールは「シームレスなカスタマージャーニーの提供」であるというビジョンを、全社的に周知徹底していくことが重要である。

著者プロフィール

大茂 幸子


アクセンチュア株式会社 セキュリティコンサルティング本部 マネジング・ディレクター


経営視点からの情報セキュリティ管理態勢の構築支援を多数実施。金融機関をはじめとした大手企業のサイバーセキュリティプログラム管理を担当し、ITセキュリティ戦略、セキュリティグランドデザイン・ロードマップ策定、各種セキュリティオペレーションのプロセス設計支援などを実施。電力・原子力・航空・自動車・放送などの重要インフラ分野における各種サイバーセキュリティ対応支援も含む。

邦銀および外資系金融機関、外資系コンサルティングファームを経て2017年にアクセンチュアに入社。クリティカルなITシステムに関するリスク分野を中心に、さまざまな業界の企業に対しサイバーセキュリティ対策のコンサルティングなどを展開している。本人が所属するアクセンチュア・セキュリティについてはこちら