IBMが、米ラスベガスで開催している年次イベント「Think 2018」において、関心を集めたテーマのひとつが、量子コンピュータである。
IBMでは、2016年に5量子ビットの量子コンピュータをクラウドを通じて一般公開。2017年5月には、16量子ビットの「IBM Q システム」を発表。2017年11月にIBMは商用向けの20量子ビットの量子コンピュータの提供と、50量子ビットの量子コンピュータを準備していることを発表している。
さらに、IBM Q早期アクセス版商用量子コンピュータを活用する最初の顧客として、JPMorgan Chase、Daimler AG、Samsung、JSR、Barclays、日立金属、本田技術研究所、長瀬産業、慶應義塾大学、オークリッジ国立研究所、オックスフォード大学、メルボルン大学の12の企業、団体、学校を発表。各社がIBM Q Networkに参加し、IBMと直接連携し、量子コンピューティングを進化させるほか、IBMのオープンソースの量子ソフトウェアと開発者ツールに基づいて、量子コンピューティングを通じたエコシステムの拡大も進める。
IBMリサーチのArvind Krishnaディレクターは、「これまでのIBMの取り組みにより、量子コンピュータが絶対零度を実現する実験室のなかだけの存在ではなくなる時代が到来した。現在までに全世界8万人がオンラインで量子コンピュータを利用している。実機で利用することが大切である。量子コンピューティングは、今後5年以内に、解決不能と考えられていた問題を解決するために幅広く使われるようになるだろう。大学の教室ではいたるところで使われ、高校でもある程度利用できるようになる」と前置きし、「IBMの研究員は、すでに量子化学における重要な節目を達成しつつある。これまでにシミュレートされた最も複雑な分子である水素化ベリリウム(BeH2)での原子結合のシミュレーションに成功している。今後も、量子コンピュータは、複雑化する問題に取り組み続け、最終的には、従来のマシンで可能なことはもちろん、それ以上のことができるようになるだろう」と語った。
同社では、2020年初頭には、多くの企業において、量子コンピュータを利用した問題解決が可能になると予測しているが、「従来型のコンピュータのプログラムの仕組みをそのまま持ってくることはできない。量子コンピュータの広がりに向けては、開発者を対象にしたトレーニングを行っていくことも必要である」としている。IBMではそれに向けた様々な施策を用意していることも強調してみせた。
また、今回のThink 2018では、展示会場に、50量子ビットの量子コンピュータの試作品を展示。終日、来場者が訪れていた。試作品とともに記念撮影する来場者が多かったのも印象的だった。
開催3日目の2018年3月21日には、IBMの量子コンピュータへの取り組みに関してArvind Krishnaディレクターが講演。慶應義塾大学 理工学部長・理工学研究科委員長の伊藤公平氏などがゲストとして登壇した。
ほかの講演では使用されなかったドライアイスの煙のなかから登場したIBMリサーチのKrishnaディレクターは、「量子コンピュータはいま始まったところであり、この進化はコンピューティングの歴史のなかでも非常に重要なものになる。いまが、ITの歴史に残る、歴史的瞬間である」と発言。「量子ビットがひとつあがるたびに、性能は、2のn条で指数関数的に伸びることになる。たとえば、50量子ビットであれば、1000兆の状態が維持でき、60量子ビットでは、100京の状態が維持できる。200量子ビットになると、全宇宙にある粒子の数を上回る。金融、医療、製薬、運輸、流通といった分野で応用でき、分子の振るまいなども計算でき、様々な分野で活用できる。古典的なコンピュータでは解決できないような課題を解決できる」とした。
また、量子コンピュータの特徴についても説明。Krishnaディレクターは、「量子チップに対しては、熱、ノイズ、電磁波などのあらゆるものが干渉する。そのため、量子チップは、宇宙よりも低い絶対零度のなかに置く必要がある」などとしたほか、量子力学の専門家であるIBMリサーチのJerry Chowマネージャーは、「現在のコンピュータは、1か、0の2進数が演算の基本だが、量子ビットは、量子力学の法則に則って、1か、0かではなく、重なり合うような0-1、0+1という状態がありうる。それにより、複数通りの可能性を並列に調べることができる」などと説明した。