現在では、銀行窓販部門の業務だけではなく企業保険部門にもRPAを展開し、同社の26業務においてロボットが活躍している。一方でRPAの導入にあたっては、適応対象業務の選定や費用対効果の検討、運用体制の構築といった面に課題を抱え、導入への二の足を踏む企業が多いのも現状だ。

こうした状況に対して大岩根氏は、「一度導入に成功すれば、そこから適用領域を拡大していくことは容易です。我々の銀行窓販業務においては、そこからの適用業務拡大もスムーズに行うことができました。ただ、導入の際にはロボットが使えるデータを作成するために業務プロセスの追加・変更が必要になることもありますし、自社システムとの親和性も考える必要がありますので、はじめにRPAを導入する対象業務の見極めが非常に重要であると考えています。業務や会社によって異なるとは思いますが、まずはPOCを実施することをおすすめします」と自社の経験をもとにコメントする。

同社では、企業保険部門へのRPA導入時においては、事務現場から提示された269業務から効果の大きい10業務を最初のRPA化導入業務のターゲットに選定し、分析を実施している。RPAにはできない処理や業務が明らかになるなど、実際に導入してみてわかる部分も多かったという。

「そもそも現在のRPAでは、プログラムで想定していないイレギュラーケースには対応できませんので、今のところエラー処理は人手によって行っています。ただ、将来的にAIが導入できればそこの判断もできるようになるのかもしれません。また、本人確認書類のチェックなど人手による単純作業はまだ多く残されていますが、データ化が進んでいない業務はRPA化が難しいという課題もあります。RPAに与えるデータをどう作成していくかというところが、各社がRPA導入時に抱える課題の実態ではないでしょうか」(大岩根氏)

現場の拒否感をどう払拭するか

ITの導入によって仕事を奪われるというイメージから、RPAの導入に対してあまり積極的な意見がでない事務現場も少なからずみられる。RPAに限らず新しいシステムを導入するとなると、現場では拒否感を感じるユーザーも多い。実際の業務が行われている現場において、RPAによって業務を効率化していく雰囲気を醸成するためにできることはあるだろうか。

日本生命保険が提案したのは、「擬人化」というアイディアだ。同社では親しみを込めて「日生ロボ美ちゃん」と名付け、ネコ型ロボットのキャラクターを制作。実際に「ロボ美ちゃん」専用の机や端末を用意したり、入社式を開催したりするなど、業務を自動化するための単なるロボットではなく、人間が行う単純作業を代行してくれる新たな仲間としてのイメージを作り上げた。

業務量が明らかに増加することが明らかになっていたタイミングで導入したのも、現場での受け入れやすさに繋がった。

「仕事を奪われるという感覚よりは、増加していく業務を手伝ってくれているという仲間意識が現場にありました。また、ユーザーに近いところでRPAの開発・保守を行っているのも、現場での理解が進むポイントとなっていると思います。これらの取り組みが功を奏して、現在では、RPA化できる業務の提案も現場から出てくるようになりました」と、大岩根氏は考察している。

現在では、金融法人契約部における事務処理の約15~20%をロボットが担っている。約20~25名分の業務効率化を実現した形だ。現場のユーザーは単純作業から解放され、より高度な職務へ挑戦できるようになるなど、働き方改革にも繋がっている。突発的な業務量の変動にも、ロボットの稼働時間を変更することで柔軟に対応できるようになった。「今後は、ホールセール分野も含めた全社の各業務に展開していきたい」という大岩根氏。さらにAI、ブロックチェーン技術など、他の最新技術と組み合わせていくことで、より高度化を図っていきたい考えだ。