工場の床を見ると、色分けや白線による通路の標記がなされている。検修の対象になる車両や台車などが行き来したり、頭上をクレーンが動いていたりするから、そういう場所に入り込むと危ない。それを視覚的に認識させるための工夫である。車両整備工場に限らず、メーカーの工場でも一般的に行われていることだ。
車両が工場に入場する際には自走せず、移動機を使って押し込む(建屋の中には架線が来ていないので、そもそも自走ができない)。移動機は車両を後ろから押しているので、運転する担当者からは車両の前方が見えない。そこで、車両の前方を見渡せる場所に誘導担当者が立って、旗を振りながら「前進」「停止」の合図を送っている。
また、押し込まれる車両の前側に当たる妻面に回転灯を設置して、周囲に警戒を促している。この回転灯は可搬式で、用が済んだらひょいと持ち去られてしまう。
台車抜きの際は、門型クレーンを使用する。最初から一気にクレーンで車体を持ち上げるような乱暴な真似はしないで、まず少しだけ持ち上げて問題がないかどうかを確認してから一気に上げる。事前に台車と車体をつないでいる配線・配管などは切り離してあるが、万が一ということもあるので、切り離し漏れがないかどうか注意を払っているという。もしも切り離し漏れがあると、車体と一緒に台車が持ち上げられてしまって事故の元だ。
ちなみに、車両を台車抜きを行う場所に押し込んでから、1両の台車抜きを実施してウマに載せるまでの所要時間は20~25分程度だった。ということは、10両編成すべての台車抜きを一気に行っても、半日ぐらいあれば済みそうだ。もっとも、その前に内装品の取り外しを行ったり、車両と車両の間を渡してあるケーブル類を切り離したり、といった作業も必要になるが。
車体がクレーンで持ち上げられて運び去られると、台車だけが残る。続いて、台車を検修場に送って主電動機を取り外すための下準備として、主電動機と減速歯車装置の連結を解く作業が行われる。
その作業の際に台車が勝手に走り出したら事故の元だから、ちゃんと手歯止(別名ハンドスコッチ。要するに輪止め)をかますようにしている。台車抜きの時もそうだが、台車を止めて作業を行う時は、短時間でもちゃんと手歯止をかます。これが重要である。
このほか、すでに台車を抜かれてウマに載せられた状態の車両を見ていて目を引いたのが、屋根に載せられた囲いだった。空調機器は取り付けた状態のまま検査しているようで、その作業の際に足場を確保するとともに転落を防止するための囲いである。
ここまで、安全を確保するための対策を紹介してきたが、後編では、効率化のための対策を紹介しよう。