今後のルネサスはどうなっていくのか

では、ルネサスの今後を呉氏はどのように考えているのか。

まずはIntersilとのシナジーについてだが、短期的なものであれば、EDAツールベンダへの支払いコストがボリュームディスカウントで抑制できるようになったという点が挙げられるほか、2018年2月にはシリコンバレーのオフィスを集約させる予定で、これにより管理費用の削減も進むと見ている。

中長期的には、両社のチップが搭載されたリファレンスボードが複数登場してきた点が挙げられる。これにより、例えばデータセンター向けには、Intersilは電源まわりで、ルネサスはメモリコントローラなどでそれぞれ別個に強い顧客が存在しているが、それぞれにリファレンスボードを提供することで、これまで食い込めなかった新たな顧客の獲得につながるといったことも期待できるようになるという。

同氏はIntersilとの統合についての感触を「全体的には順調」としており、Intersil単体としても、当初の予測よりも売り上げも収益も高く、「マーケットが強い。その強い伸びを収益に変えていく力がある」と評価。粗利率も60%を超すなど、良い買収であったとの見方を示す。

また、6月に実施したPOで得た資金については、「現状、我々は配当をできていない。上場企業として、配当は企業の責任であると考え、2017年3月までは株主に対して、復配を目指すとしていたが、今回のPOを通じて、中長期で半導体産業を見てくれる投資家から強い需要があり、そうした彼らを中心に、設備投資やM&A、研究開発といった分野に大きな成長のための機会があると思っており、そういったところに資金を投入することで、さらに株主価値を高めることができる、という説明を行ったところ、配当してくれないと困る、という株主はいなかった」としており、今後、得られた資金についてはほぼラインが埋まっている設備への投資以上に、M&Aや研究開発へと投じ、さらなる成長の原資としていくとする。

研究開発としては、超低消費電力を実現できる「SOTB(Silicon On Thin BOX)」の開発を促進するほか、機能を逐次切り替えていける「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」といった技術の開発を進めていくという。「ただ、こんな半導体チップができました、これ使ってくれませんか、で売りに行くのではなく、今までなかった市場を生み出しに行きたい」と同氏は、こうした新技術を、新たな市場の創出に結びつけるものと位置づけであるとの考えを示す。例えば、超微弱な電流しか生み出せない昆虫やバクテリアと組み合わせて、昆虫ロボットの実用化や、体温で発電し、心臓の挙動を把握するヘルスケアアプリケーションといったことなども考えられるようになる。

一方のM&Aについて、同氏は「株主価値を高めるかどうか」という点を重視し、検討を進めていくとしている。「今、決めていることは何も無い」と言うが、「機会が浮上してきたときに、掴みに行かなければ、後で後悔することになる」という心持りから、常にM&Aを実施する機会はうかがっているという。

2018年はまいた種を育てる年に

また同氏は、「ルネサスは、価格変動の大きいコンシューマ分野から、産業機器や自動車、家電など、絶対に辞めずに長期的に製品を提供することをコミットする領域にフォーカスを移した。こうした領域に、これまで踏み込んでこなかったコンシューマ中心の半導体企業が、20年にわたって製品を提供し続ける契約を果たして取り交わせるのか。企業としての人格を変えるような話になってくる」と、自社の立ち位置を分析する。

そうした意味では、QualcommのNXP Semiconductors買収の話題や、そのQualcommをBroadcomが買収するといった昨今の話題も含めて、海外企業の動きがここに来て鈍化してきていることは、「ルネサスを短期的に有利なポジションに押し上げる」ための要因になるという見方を同氏は示す。さらに、「こうした状況で、我々自身がのろのろしていると、勝てない。ここで機敏になれるかどうかが重要」とも述べており、現在の好調さにおごることなく、次の一手を矢継ぎ早に打ち出すことで、アドバンテージを稼げるときに、稼げるだけ稼ぐ、という強い意志が感じられた。

ルネサスの呉CEO

そんなさまざまなことがあった2017年を好調のうちに終えて迎える2018年について同氏は「デザインインについて、2017年は公表できない電気自動車や自動運転がらみの話題が多かったが、そうしたまいた種を育てる年」と表現。「自動車は特に息の長いビジネスなので、収穫まではいかないと思うが、足元の財務的な健全性を保ちながら、これを伸ばしていきたい」ともしており、2017年の取り組みが順調に育っていくことに対する期待を覗かせる。

最後に同氏は、「市場としてもポジティブな見通しで、だからこそ、方向性を見失わないようにしていかないといけない。ビジネスオポチュニティ(機会)を探しているというよりも、むしろ沢山ある状態で、その優先度を見誤らないようにしていく」とCEOとしての抱負を、笑顔で語ってくれた。

以前より、自身の役割は経営と語ってきた同氏だが、その想いに基づく取り組みが、ここに来て、ようやく成果として花開いてきたのが2017年の同社のさまざまな取り組みであり、業績であると言えるだろう。2018年も半導体市場そのものは成長が続く公算が高い。一方で、猫も杓子も自動運転、IIoT、AIといったビッグワードに対してアプローチをかけており、半導体企業としての競争は激化していくことが予想される。そうした中、2018年はグローバルで勝つことを目指す同社の真価が問われることになる1年になるものと思われる。