勉強しなくて済む、万能翻訳機は完成するのか?

Googleなどいくつかのビックベンダーかはテキストの自動翻訳サービスや音声を文字列に起こすスクリプトサービス、テキストを音声に起こすサービスをクラウドベースで提供している。こうしたサービスを組み合わせると音声による操作や、自動翻訳機のようなことを実現でき、すでにこうしたサービスを利用した製品も登場している。先日Amazon Web Servicesも同様のサービスを発表したばかりだ。

「万能翻訳機」はSFではよく登場する便利な道具だが、多くの場合、いつのまにか同時通訳が自然と行われるようになったり、異世界の言葉すら読み書きできるようになったりする。原理は物語によってさまざまで、それぞれに都合がいいような理屈となっている。

こうした万能翻訳機を妄想した時に思い浮かべるモノは、世代によって違うだろう。例えば、『スタートレック』の万能翻訳機かもしれないし、『スターウォーズ』のC-3POかもしれない。はたまた、『ドラえもん』のほんやくコンニャクかもしれない。

多くの日本人が学校で最初に勉強する外国語は英語であることが多いと思うが、こうした便利な道具を思い浮かべながら、「ほんやくコンニャクがあればこんな勉強しなくていいのに……」と思ったことがある人は多いのではないだろうか。

そのうち、SiriやAlexaといったデジタルアシスタントが自在に翻訳してくれる世界になるような気もするが、SFに登場するような高性能の万能翻訳機の登場はまだ待たなければならないというのが現実だ。ただ、今のところその入口までのところには来ている。

ログバーの「ili(イリー)」とは何者か?

さて、今回は先行販売が発表されたログバーの「ili(イリー)」を紹介しよう。エンタープライズの分野でこうしたデバイスが取りあげられることは珍しいと思うが、今後の翻訳市場を考察する上でわかりやすいデバイスだ。既存のデバイスと比べて異なる点も取りあげておきたい。

42グラムと首から下げて邪魔にならない重さで、日本語から英語、中国語、韓国語への翻訳が可能になっている。12月6日に2018台限定で先行販売を実施したところ、1時間で完売したそうだ。特別価格の1万7880円で先行販売第2弾が行われており、一般販売は2018年3月から価格19800円で行われる予定だ(いずれも税別)。

  • ウェアラブル翻訳デバイス ili(イリー)第2世代

iliの特徴を簡単にまとめると、次のようになる。

  • スタンドアロンで利用可能(インターネット接続を必要としない)
  • 翻訳の方向は片方向
  • 旅行での利用にチューニング可能

iliには、電源ボタン、翻訳ボタン、確認ボタンと3つのボタンしかない。翻訳ボタンを押しながら日本語をしゃべる。ボタンを離すと、中国語であったり韓国語であったり、対象となる言語に翻訳した結果を話してくれる。

iliの最大の特徴はスタンドアロンで利用可能というものだ。現在販売されている多くのデバイスはバックボーンにクラウドサービスを必要としている。つまり、インターネットに接続した状態でなければ利用できない。一方、iliはスタンドアロンで利用可能で、インターネット接続を必要としない。

もう1つの特徴は、双方向翻訳をサポートしていない点だ。切り替えれば似たようなことはできるが、あえてこの機能は削ってあるという。iliは旅行に持っていって出先で気軽に使えるデバイスとして設計されているため、開発を突き詰めた結果、片方向の翻訳機能のほうが便利ということで落ち着いたそうだ。

使って楽しいおしゃべりデバイス

発表前の第2世代(2018年版モデル)を借用できたので、使ってみた感じをお伝えしたい。第2世代のiliは日本語と韓国語の翻訳をサポートしている。自分は韓国語がまるでわからないので、このデバイスの性能(というか頼りがいさ)を調べるには韓国語がよいだろう。

ソウルをぷらぷらしながら、店やホテルでこのデバイスを使ってみた。いろいろ使ってみたが、思っていた以上に普通に使えた(韓国語がわからないので、本当に伝わっているのかはわからないのだけれども)。以下、カフェで使ってみた例を紹介したい。

  • お洒落なカフェがいくつかあるという裏どおりを散策。綺麗なカフェを発見

  • 店内もきれいだ

英語が使えるなら「何かオススメですか?」「体があたたまるものをください」といった感じでやりとりすればよいのだが、韓国語がまるでわからないのでどうしようもない。そこで、iliの出番である。デバイスの丸ボタンを押して「何がオススメですか」としゃべってみた。ボタンから手を離すと、iliが韓国語で何かをしゃべってくれた。たぶん韓国語で「何がオススメですか」と聞いてくれたんだと思う。これがオススメだといったことを言われたような気がするので、それを注文してみた。

  • カフェのメニュー。何がオススメかを聞きたいものの、日本語も英語も通じない

  • iliに向かって「何がオススメですか」としゃべってみた

  • この店のオススメはコレみたい。おいしかったです

何度か使ってみてわかったのだが、「ili」で「これは何ですか?」とか「ここまでどうやって行けばよいですか」といった任意回答が可能な質問やコミュニケーションをしてはいけない。デバイスが韓国語でしゃべるからか、質問に対して韓国語で大量の返事が返ってくる。

このデバイスはYESかNOの2択、または一方通行のお願いをする場合に力を発揮する。「寒いので温度を上げてください」「これはウールですか」「もうちょっと大きいサイズをください」のような感じだと、スムーズにコミュニケーションがとれる。

相手の反応はこんな感じだ。

  1. iliに日本語で話しかける自分を不審な目で見る
  2. iliが向けられて警戒する
  3. iliが韓国語を話、驚く
  4. ニヤッとする

英語が使える相手とは英語でコミュニケーションがとれたが、相手も自分も英語は母国語ではないと、どうしてもつっけんどんなやり取りになってしまう。しかし、iliを使って相手の母国語である韓国語で伝えると、ちょっと対応が優しくなったように思う。

確かに逆の立場だったら、海外の人が日本語を話すデバイスを使ってコミュニケーションをとってきたら、こちらもニヤッとして多少対応が優しくなるだろうな、と思う。2020年のオリンピックでは日本でiliを使う旅行者を見かけるようになるかもしれない。