価格変動のリスクは取らず、設備投資や運用負担もほとんどなし

新規顧客の獲得に加えて、平均単価も高い。いいこと尽くしのビットコイン決済だが、導入に際してシステム面や経理業務面などの障壁はあるのだろうか。

「ビットコイン決済にあたり、何か新しい決済システムを導入したわけではありません。決済の際はビットフライヤー社の提供しているアプリを使うため、設備投資や保守・運用費も不要です。そのため導入は非常にスムーズだったと言えるでしょう」

エイチ・アイ・エス

ビットコインで旅行代金を支払う際は、店舗のタブレットでビットフライヤーのアプリを起動し、表示されたQRコードを利用者がスマートフォンでスキャンするだけ。利用者とビットフライヤーの間でビットコインの取引が行われ、購入時のレートで換金される。後日ビットフライヤーからエイチ・アイ・エスに、代金分の日本円が振り込まれるという仕組みだ。

「われわれは一切ビットコインを保有しないため、価格変動のリスクを負うことはありません。極端な話、ビットコインそのものがなくなっても、経済的な打撃を受けることなく旅行事業は継続できます。帳簿上では一般的な商品と同様に円で支払われるので、特別な処理を行う必要もないのです。ただし、社内からは導入に対して慎重な声もありました」

2017年の8月は「ビットコインの分裂」が問題となった時期でもあった。仮想通貨の知識がないことも不安を増幅させる要因となり、社内からは導入に対して慎重な声がいくつも出てくる。システム的なハードルはなかったが、社内調整の難易度は高かった。

そこで吉野氏は、ビットフライヤーの協力も仰ぎ、社員に正しい知識を持ってもらうためにビットコインの仕組みを説明する機会を設けた。「ビットコインとは何か」という基礎から専門家によるレクチャーを社員に受けてもらうことで、仕組みやリスクについて理解してもらうことに成功する。

エイチ・アイ・エス 関東販売事業部 販売管理グループ グループリーダーの吉野真司氏

「社風として新しいものを取り入れること自体には抵抗はあまりないため、仮想通貨に対する心理的なハードルさえクリアできれば、導入に慎重な声はいつしか聞こえなくなりました」

ビットコインを保有するリスクもなく、設備投資もほとんどない。顧客の決済手段に選択肢が増えて利便性向上が見込めるならと、順調にビットコイン決済の導入は進んだ。

「導入してから目に見えない潜在的リスクが顕在化するかもしれないと覚悟していましたが、今のところは特に問題も起きていません。想定していたより利用者が多かったこともあり、業界で最初に導入できてよかったですね」

同社の決済方法はかつて現金のみだったが、顧客の利便性を重視してクレジットカード決済も導入。さらに、ビットコインで支払いたいという顧客の要望が出てきたことで新たな決済方法を導入することになった。

「もちろんほかの仮想通貨で支払いたいという要望が出てくれば、決済方法で追加することを検討するでしょう。ただし今のところは、ビットコイン以外の仮想通貨を導入する予定はありません。ビットコイン利用者は今後拡大していくと思うので、今後は導入店舗の拡大とオンラインでのビットコイン決済導入を目指したいですね。特にオンラインは最も間口の広いチャネルでしょう」

仮想通貨とより相性のいいオンラインでの決済が可能になれば、自宅でビットコインの取引をしながら、利益の一部を使って旅行商品を購入するといったこともできるようになるだろう。わざわざ店舗に足を運ぶ必要もないので、仮想通貨保有率の高いインバウンドの需要にも対応できるかもしれない。

盛り上がりを続けるビットコイン相場。このまま価格は上昇していくのか、正確に予想することは難しいが、ビットコイン決済の導入先が少しずつ増加していくことは想像に難くない。事業者は利益の使い道を示すことで、新たな"投資の楽しみ"としてサービスを提供できるようになるだろう。