IoTの活用で、稼働率向上やさらなる高品質化を目指す
ではなぜ、OTCが航空宇宙産業向けプリント基板にここまで注力するのか。最初は航空宇宙産業とは異なる産業分野での成長ももくろんでいたと西村氏は語る。しかし、未開に近い産業分野になれば、そこで用いられている言語や業界そのものの風習・文化が異なり、なれるのに時間がかかるという問題があった。しかし、航空宇宙産業については、すでに参入済みである一方で、求められる品質が高く参入障壁が高いことから、他社に先行して市場を確保できれば、伸びる市場を背景に、売り上げの拡大も期待できる、ということから注力することを決定したとする。
「宇宙のみならず航空分野向け技術を含め、いかに不良率を下げ、高品質なものを作っていくか、ということが重要になる」(同)というのが同社の基本的なスタンスであり、そのために現在は工場内でのIoT(いわゆるIIoT)の活用を積極的に進めようとしている。IoTについては、「航空宇宙産業向け、というだけでなく、高付加価値な製品を製造するためには必要な技術」としており、そのための組織改変を実施。技術本部の下に、IoTを活用した新たな保全を実現する試みとして、マルチホップ技術やセンシング技術の研究・活用を進める部隊を立ち上げるなど、単なる最適ラインの構築といった改革ではなく、最新技術を活用した次世代型とも言うべき生産性向上に向けた改革を推し進めている。
「人を大切にしつつも生産性改革を実現する」と語る西村氏からは、1年ほど前に話を伺った際の、「人を育て、技術を高め、顧客のニーズに愚直に対応していく」という姿勢からのブレはまったく感じられない。そんな同氏がこういった形の生産性の改革を口にするのは、2019年度に掲げている売り上げ目標の実現に向け、必要な数の人員を確保することが、昨今の日本の好景気を踏まえると難しい、という判断がある。「人を雇いたいけど、日本全体での人手不足なので、それも厳しい。自分たちが頑張れる範囲の外の問題であり、忸怩たる思いがある。そうした人員の大幅な増加が見込めないということを踏まえ、事業の拡大を図っていくためには、生産性の改革、工程の自動化、パートナーの活用などの生産拡大に向けた方法がある中でも、自動化を含めた形で生産改革を進めていく必要がある」と同氏は、今回の生産性改革に踏み切った思いを語る。
そんな同氏が率いるOTCだからこそ、闇雲に宇宙航空産業の売り上げ拡大を図っていくということではなく、「まずはJAXAを中心に足場を固めて、その上で民間需要も含めることで、航空宇宙事業の目標を達成する」という地に足をつけた戦略のもと、将来的には規格が異なる米国航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)などの認定の取得も目指していきたいという夢を掲げている。
現在、ISTの取り組みは言うに及ばず、日本国内でも次々と宇宙を目指す民間企業が出てきており、数年後には、同社が見据えるような日本の航空宇宙市場の成長が、現実のものとなる可能性が高いと思われる。そのような中、JAXA、民間企業問わず、すべての国産ロケットや人工衛星に同社のプリント基板が活用される、そんな未来が、近い将来、本当に訪れるかもしれない。
参考
・宇宙航空研究開発機構 宇宙開発用信頼性保証 プリント配線板 共通仕様書
・内閣府宇宙戦略室 新たな宇宙基本計画(案)について