一方、AR市場においては、HMDの2つのビジネス利用の分野が立ち上がりつつある。1つは、高いコンピューティングを要求するもので、クリエイティブ分野のデザインをターゲットとしている。もう1つは、コンピューティング性能をそれほど要求しないもので、IoT分野の情報伝達をターゲットとしている。
今年は、6月にAppleが開発者カンファレンス「WWDC 2017」でARプラットフォーム「ARkit」を発表し、8月にはGoogleがAndroid向けARプラットフォーム「ARCore」 を発表し、ARに対する注目度が高まった。
とはいえ、2017年第2四半期のAR市場の出荷は非常に低調だったという。リース氏は、「85%がスタンドアロン型で占められており、ほとんどがビジネス利用」と説明した。この状況は数年続き、2020年に入るとようやく市場が形成されるという。
2017年第2四半期のAR向けHMDのシェアは、マイクロソフトが首位を獲得しており、これにエプソン、ODGが続く。現在は、AndroidがOSとして選ばれることが多く、エプソンはドローンの一人称視点ビューを通じて、コンシューマー市場への展開を図り始めている。
リース氏はARの課題としては、「光学上製造難易度が高い」「手および視線のトラッキング技術がカギとなる」「ネットワークなどのバックエンドに対する投資が必要」「性能と可搬性のジレンマ」を挙げた。ネットワークについては、モバイルのビジネス利用において開発が進んでいる5Gがカギとなるという。
日本市場については、IDC Japan PC,携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリストの菅原啓氏が説明を行った。
菅原氏は、AR市場、VR市場のいずれにおいても日本市場の成長性は世界に比べて、若干見劣りすると指摘した。実際、IDCが行った調査において、国内の企業において、金融や建設土木では検討意向がやや高いが、他はAR/VRのビジネス利用の意向が低いという結果が出ている。
菅原氏はVR市場を分野別で見た場合、教育の2017年から2021年までの年平均成長率が、世界は101.6%であるのに対し、日本は15.1%に過ぎない点を引き合いに出し、VR経験者の裾野拡大のカギを握る教育に対する支出規模が小さいことが懸念材料になると指摘した。この傾向は、AR市場に関しても同様である。
日本がAR/VR市場において後れを取っている要因はいくつかある。1つは文化だ。AR/VEに限らず、日本はITの導入が世界よりも遅れる傾向がある。加えて、AR/VR市場においては、PS4がVRの対象年齢を12歳以上としていたり、ARを採用して話題になったゲームアプリ「ポケモンGO」に問題が多発したりしたことが、足止めの要因となっているという。
技術面においては、海外に比べて、3Dデータを持っている企業が少なく、菅原氏によると、日本でも3Dデータを持っている企業はAR/VRビジネスを進めているそうだ。
そのほか、菅原氏は「スクリーンレス型普及を促すシェアが小さく、市場の素地がない」「機器を使うための広いスペースが必要」といったことも阻害要因として挙げた。
日本でAR/VRを広げるきっかけとしては、国民的なイベントなどで、利用者が多いスマートフォンに対応したAR/VRコンテンツを提供することが、例として紹介された。
IDCとしては、「AR/VR技術はデジタル、リアル、人間すべてのインタフェースを変えるものであり、どんな業種もAR/VRのインパクトから逃れられない。いつインパクトを与えるかの問題」と考えているという。