Adobe Senseiは未来をどう変えるか

基調講演の最後の一コマは、AI基盤「Adobe Sensei」に関する紹介となった。

Adobe Senseiは、昨年のAdobe MAXで登場したAdobe製品群のためのAI基盤である。機械学習を駆使してユーザの操作や挙動などを学習し、それをツールの機能向上に適用している。

Adobe Senseiの学習結果はCreative Cloudのあらゆる場所で活用されており、すでに無くてはならない存在になっているという。なお、Adobe SenseiはCreative CloudだけでなくExperience CloudやDocument Cloudの基盤としても同様に活用されているという特徴もある。

Adobe Senseiはあらゆるシーンで活躍している

AdobeのExecutive Vice President兼CTOであるAbhay Parasnis氏は、Adobe Senseiについて次のように語った。

「AIは人間に取って代わる存在という人もいるが、我々はそうではないと思っています。AIは人間に変わってクリエイティブな仕事をするものではなく、繰り返しやるようなつまらない作業を代わりに担当することで、人間がよりクリエイティブな作業に集中できるようにするものです」

「Adobe Senseiは人間の仕事を奪うわけではない」という説明は、この日の基調講演で何度も強調して語られた。Adobe Senseiはあくまでもクリエイターを手助けするアシスタントの役割を果たすもので、それ自身がクリエイティブな作業を行うわけではないということだ。Adobe Magicと呼ばれるような革新的な機能についても、過去のクリエイターのノウハウの蓄積であって、Adobe Sensei自身がクリエイティビティを発揮したわけではない。その点を誤解しないで欲しいということだ。

さて、現在のAdobe Senseiの焦点は次のような部分に当てられているという。

・Computional Creativity
・Experience Intelligence
・Understanding Content

クリエイティビティを定量的に計測し、コンテンツに関する深い学習を行う。それによって、コンテンツ制作においてクリエイターを手助けする機能をツールに提供する。

Adobe Senseiの3つの焦点

さらに、将来的に実現したい機能として、次のようなものが挙げられた。

・Creative Assistant
・Content & Design Intelligence
・Creative Graph

Creative Assistantとは、クリエイターがやりたいことを先回りしてアシストしてくれるというもの。重要なのは現在のワークスタイルを邪魔することなく、シームレスに統合することだという。Content & Design Intelligenceの例としては、クリエイター個人のよく使う機能や操作を学習し、適切にレコメンドしてくれるような機能が紹介された。Creative Graphは、これまでのクリエイティブな決断をグラフ化して辿れるようにするというものだ。

これらの機能のデモとして、Adobe SenseiとPhotoshopを組み合わせてSF風の映画のポスターを作成する様子が紹介された。

まず手描きのスケッチをPhotoshopに読み込む。Adobe Senseiはこれを分析して、「女性」「星」「宇宙」のように、このスケッチに含まれている特徴的な要素を抽出する。

手描きスケッチから特徴を抽出する

続いて、この要素をキーワードとしてAdobe Stockを検索し、使えそうな写真素材を探し出して提案する。宇宙っぽい背景画像や、少し近未来の雰囲気の女性写真がピックアップされている。色や顔の角度など、微妙に異なる画像がリストアップされているので、デザイナーはこの中から気に入ったものを選択する。写真素材から人物だけを抽出するには切り抜きツールを使う。これはPhotoshopの得意分野だ。

手書きスケッチをもとに探された画像

手描きスケッチをもとに探された画像

同様にして、提案された素材を組み合わせていくことで、イメージに合ったポスターを作り込んでいくことができる。

イメージに合った素材を組み合わせていく

Photoshopで作ったデザインはAdobe XDに取り込むこともできる。Adobe XDにもAdobe Senseiが統合され、iPhone用のレイアウトを自動で生成したり、画面遷移の動線を自動で付けてくれたりする。

画面遷移の動線を自動で付加

ここまでの過程で、デザイナーは画像素材の選択などといったいくつかの決断を行なってきた。Creative Graphはこの決断をグラフとして見えるようにする機能だ。

さらに、各分岐点で「もし別の選択をしていたらどうなったか」という"if"をプレビューすることもできるという。たとえば「人物の顔の角度を少し変えていたら」とあ「別の人物写真を使っていたら」などといったケースで、実際にどんな印象になるかを確認することが可能となる。

過去のクリエイティブな決断をグラフ化

決断分岐点の「if」をプレビュー

このデモはあくまでも開発中のものであり、実際に現在のPhotoshopで使えるものでも、将来使えるようになることが保証されているものでもない。しかし、まさにAdobe Magicとも言えるデモであり、Adobe Senseiの大きな可能性を感じさせるものだった。

最後に、Bryan氏が壇上に上がり、次のように呼びかけて基調講演を締めくくった。

「Creative Cloudコミュニティのパッションは非常に豊かなものです。私たちのツールが、その手助けできることを楽しみにしています。一緒に世界を変えていくことができると思っています。このAdobe MAXで、ぜひ新しいインスピレーションを得てください」