進化するブロックチェーンの技術
ビットコインのコア技術として登場したブロックチェーンだが、その仕組みに注目した人々は「ビットコイン以外の記録にもこの技術を使うことはできないものか」と考えるようになる。しかし、ブロックチェーンをそのまま企業のシステムなどに置き換えようとすると、いくつかの問題が浮かび上がってきた。
「まずは、処理速度。世界中に存在するノードから参加することが前提となっている従来のブロックチェーンでは、取引承認の仕組みがしっかりと整備されている反面、1分間に数件程度しか処理できないという問題がありました。また、暗号化されているとはいえデータが第三者に見えてしまうことも、一般企業などがシステムに活用するために解決しなければならない課題でした」
処理速度が遅ければ銀行の勘定系システムなどに使うことができず、不特定多数の参加者がいればデータの管理も行うことができない。
そこで、それらの課題を解決するために、新たなブロックチェーンが登場する。
ビットコインで使われているようなブロックチェーンを「パブリック」と呼ぶのに対して、「プライベート」型と呼ばれる新たなブロックチェーンは、特定のメンバーのみが参加する仕組みを作ることで、不特定多数が参加する場合に求められる複雑な合意形成のアルゴリズムが不要になった。
その結果、プライベートのパブリックブロックチェーンでは、特定メンバーのみの合意で管理することが可能な仕組みを構築し、秒間数千件の処理を行えるようになったという。
「ただし、これはどちらが優れているというものではありません。用途に応じてパブリック型とプライベート型から選ぶことができるようになったというわけです」と平野氏は補足する。
さらに、最近ではブロックチェーンに代わってDLT(Distributed Ledger Technology)と呼ばれるタイプも派生してきた。
「DTLはブロックチェーンのいいところを使うような技術で、"ブロック"が"チェーン"していないためブロックチェーンと呼ぶことはできませんが、分散型の台帳技術が使われている点は共通しています。また、それよりも大きなくくりでは、データを記録するKey Value型をはじめとするデータベースタイプが挙げられるでしょう」と、ブロックチェーンの周辺技術として、平野氏はいくつかの分類を紹介した。
さまざまな業界で検証が進むブロックチェーン
もちろんブロックチェーンが万能というわけでもないため、既存のデータベースとの上手な使い分けが求められる。特に頻繁なデータの書き換えには不向きであり、入れ替えの多い企業の人材情報登録などには使いづらく、送金履歴など着実にログを積み上げていく用途に適しているという。
また、高価なホストコンピューターが不要なネットワークとはいえ、現時点でのコスト削減効果は目に見えるほどではない。
「今では当たり前に使われているインターネットも、黎明期には高価な通信モジュールが必要でした。ブロックチェーンも同様に、目に見えるコスト削減を達成するにはもう少し時間がかかるでしょう。既存のシステムを使いながらブロックチェーンを使う場合は、当然アディショナルコストとなります」
宮崎県では産地偽装を防止するために有機野菜のトレーサビリティに、ベルギーのアントワープ市では市民の出生証明や住民票にブロックチェーンが活用されるなど、実験やサービスへの導入を進める団体は増えているが、普及するまでは少し長期的に見る必要があるだろう。
そして、ここまでブロックチェーンの基本的な仕組みを解説してくれた平野氏は言った。
「正直、ブロックチェーンは技術的にそこまで深く知る必要はありません」
今までの説明はなんだったのだろうと思う人もいるかもしれないが、平野氏は続ける。
「技術的にブロックチェーンに携わる人や誰かに仕組みを説明する人は、ある程度知っておく必要はありますが、この技術が普及していけば、ブロックチェーンは見えなくなっていくでしょう。インターネットの接続に必要なベースの技術であるTCP/IPと同じような場所にブロックチェーンが位置しており、ユーザーはAPIやミドルウェアを通じて、ブラウザーやアプリのUIで使うようになるためです」
インターネットの利用にTCP/IPの知識が不要であることと同様に、ブロックチェーンは技術の知識がなくても利用できるようになっていくだろうと平野氏は予測する。
専門的な知識を必要としない人にとって、ブロックチェーンとはデータの改ざんが難しい記録技術であるという程度の認識でいいのかもしれない。