市場が拡大しているとはいえ、タイムシェアリゾートのビジネスモデルは日本人にはまだ馴染みの薄いビジネスモデルだ。中山氏は、くじら倶楽部について「日本在住の日本人を対象にビジネスを展開している」と語るが、具体的にどのように認知拡大や関心喚起のためのマーケティングを日本市場に向けて展開しているのだろうか。
中山氏によると、日本で放送しているハワイ関連番組をスポンサードしたり、またハワイのホテルで宿泊者向けに放送されている日本語チャンネルにCMを出稿しているほか、ハワイで日本人観光客向けに配布されている観光情報誌などに広告を掲載するなど、“ハワイ”というタッチポイントを最大限に活かしたマーケティング展開をしているのだという。
またデジタルメディア展開では、ハワイに関心のある人とのエンゲージメントを構築するためにオウンドメディア、ブログ、Instagram、Facebook、そしてメールマガジンなどを通じてタイムシェアリゾートについてだけでなくハワイの現地情報を積極的に配信しているとしている。加えて、タイムシェアリゾートの仕組みについて理解してもらう目的でウェブ動画の番組なども制作しているほか、関心のある見込み顧客に対してはLINEを使って直接コミュニケーションを取ることもあるのだという。
「タイムシェアリゾートのターゲット顧客は、まずハワイが好きで定期的に観光で訪れているリピーターの方になる。そこで、“ハワイ”というキーワードで確実に対象となる消費者を絞り込んでリーチすることを意識している。タイムシェアリゾートの活用シーンやライフスタイルの訴求を中心にプロモーションを行っている」(中山氏)
こうした取り組みで中山氏が最も気を配っていることは、こうしたチャネルを通じてくじら倶楽部に接触する見込み顧客から信頼を得るということだ。
「タイムシェアリゾートのリセール単価は100万円から2000万円程度と、(新築販売と比較して)安いとはいえウェブを通じて販売する商品としては非常に高額だ。購入を検討している見込み顧客は信頼できる事業者であるか否かを最も重視しており、私たちもワイキキの中心部に事務所を構えウェブサイトなどでも顔の見えるマーケティングを展開するように心がけている」と中山氏は語る。
かつては事務所を持たずにウェブサイトだけでビジネスを展開した時期もあったのだそうだが、実際には顧客の信頼を得ることができずビジネスは軌道に乗らなかったのだという。タイムシェアリゾートは日本にいる消費者にとって馴染みがまだ薄く、しかも海外の観光地で高額な所有権を買うという特殊性を持った商品だ。そこで商品に興味を持ってもらうためには、まず企業や経営者に対する信頼性を担保することが不可欠なのだ。
「高額な商品を勧める上で“安心感”というのはマーケティングにおける重要なキーワードになる。ウェブで問い合わせた見込み顧客の中には、ワイキキの事務所で顔を合わせてやっと安心してくれる人も多い」(中山氏)
こうした信頼の構築は、同社のビジネスの姿勢でも表れているのだという。日本人に向けてマーケティングをするのであれば日本国内に事務所を構えてそこで顧客と接点を持つことが最も近道なのではないかと思うところだが、くじら倶楽部ではハワイの現地に事務所を構え、現地の不動産免許を取得してビジネスを展開していることを信頼構築の土台にしているのだという。また、日本国内の事業者と販売に関するパートナーシップを拡大することもできるはずだが、あえて積極的にせず同社が直接日本の顧客と接点を持つことを重視しているのだという。
「日本国内ではハワイの不動産免許を持たずにビジネスを展開している事業者もあるが、私たちは不動産取引に関する法律、税金、登記に関して絶対的な知識があることを強みに顧客の信頼を得ていきたい。どんなビジネスでもそうだが、何か取引上のトラブルが生じたときに何があっても顧客に迷惑をかけない体制と知識が重要ではないか」(中山氏)
日本から遠く離れた遠隔地にある商品やサービスを訴求する上で、現地で実際の商品やサービスに触れることができないという厳しい条件の中で見込み顧客の関心喚起やエンゲージメント構築の拠り所にできるのは、事業者・経営者が発信する情報だけになる。その情報にどれだけの質を追求し、見込み顧客の背中を押すことができるかというのは、日本国内で行われるマーケティングとはその難易度は大きく異なるといえるだろう。その中で中山氏は、国内代理店など安易なリーチ手法で消費者と接点を持つのではなく、自身のプロフェッショナルな知識や経験をハワイの現地から発信することにこだわることで、顧客の信頼を獲得しているのだ。
「今後のマーケティングについては、タイムシェア業界に貢献することと、ハワイそのものをもっとPRしていきたいという思いが強くある。またタイムシェアリゾートでは、別荘と違い自分の荷物を長期保管できないなど不便さもあったり、親から子へと名義を変更して継承したいといった声もある。リゾート開発会社が十分にフォローできていない、タイムシェアリゾートをより使いやすくするための付帯サービスの企画も顧客ニーズに合わせて推進していきたい」(中山氏)