第3の改良は、シェーダ命令のプリフェッチを行うようになった点である。

Vega10 GPUでは40種の新しい命令がサポートされた。また、IEEE準拠のFMA32がフルレートでサポートされ、レーン間のデータ交換機能がサポートされている

さらに、Vega 10のNCUでは、マシンラーニングなどの処理を高速化するため、16bitの演算がサポートされている。16bitの演算は通常の32bitの語に2つの16bitデータを詰め込み、並列に演算を行うので、クロックサイクルあたりの演算数は2倍になる。また、同じ数のレジスタエントリやメモリ領域に2倍のデータを格納できるという点で、低精度でよい計算には大きなメリットがある。

Vega10 NCUでは16bitの演算がサポートされた

ソフトウェアスタックは、マシンラーニングのソフトウェア層の下にCaffe2やTensorflowなどのフレームワーク層があり、主要なフレームワークをカバーしている。その下にMIOpen、Blass、NCCLなどのミドルウェア、ライブラリ層があり、その下はコンパイラなどのROCm層となっている。

そして、これらのソフトウェアスタックはすべてオープンソースとなっている。

ソフトウェアスタックは、マシンラーニングのソフトウェア層の下にCaffe2やTensorflowなどのフレームワーク層があり、その下にMIOpen、Blass、NCCLなどのミドルウェア、ライブラリ層がある。その下はコンパイラなどのROCm層となっている

Vega 10ではクロックの向上に加えて、16bit演算のサポート、クロスレーンのデータ転送などがサポートされ、Fijiと比べて、ディープラーニングの性能が1.6倍以上に向上している。

Vega10では、Fijiと比べて、TensorflowでのImageNetの学習性能が1.6倍あまりに改善している

このVega 10を搭載するコンシューマ製品の一覧を次の図に示す。左から2つが64NCUの製品で、左端は水冷版である。右端は56NCUの製品である。64NCUの場合も4~8個のスペアNCUが作りこまれていると思うが、56NCUの場合はさらに8個の不良NCUまで許容できる。また、クロックが若干低いチップも使える。ということで無駄になるチップを減らしている。

Radeon Vegaのコンシューマ向け製品の一覧。左から64NCU水冷版、64NCU空冷版、56NCU空冷版である

空冷版のクロックは1.247GHzであるが、水冷版はクロックを1.406MHzまで上げており、ブースト時には1.677GHzまでクロックを引き上げられる。このため、FP32性能は13.7TFlopsとなっている。しかし、消費電力は、空冷版が295Wに対して345Wとなっている。

56NCU版は、NCUの数が少ないだけでなく、クロックを1.156GHzに下げており、FP32性能は10.5TFlopsとなっている。しかし、消費電力は210Wと小さい。Flops/Wで見ると、64NCUの水冷版が39.7GFlops/W、64NCU空冷版が42.9GFlops/W、56NCU版は50GFlops/Wで、電力効率では56NCU版が一番高い。

値段は、64NCU空冷版のGPUは499ドル、56NCU空冷版は399ドルとなっている。売り方がちょっと面白く、GPUだけを売るのではなく、Radeon Packという抱き合わせ販売も行う。次の図のように、Packで買うと、Radeon Free Syncをサポートするモニタを買う場合は200ドル値引き、一部のRyzen 7 CPUとマザーボードを買う場合は100ドル値引き、それに加えて2本のゲームソフトが付いてくる。

Radeon Packで買うと、Radeon Free SyncモニタやRyzen 7 CPUを買う場合は値引きがあり、2本のゲームソフトが付いてくる

Packのお値段は、64NCU水冷版は699ドル、64NCU空冷版は599ドル、56NCU版は499ドルで、水冷版はGPU単体では売らず、Packで買わないと入手できない。単体でも買える空冷版は、Packと単体の値段差は100ドルである。したがって、Free SyncモニタやRyzen 7 CPUを買うのなら、Packで買わない手はない。また、ゲームソフト2本は120ドルの価値と書かれており、ゲームで遊ぶなら、やはりPackで買う方が得である。

一方、プロ向けの製品としては、グラフィックワークステーション向けのRadeon Vega Frontier Editionとサーバ向けのPro WX 9100、2TBのSSDを積んだPro SSGという製品がある。プロ向けの製品のHBM2の容量は16GBである。コンシューマ向けの製品もHBM2を搭載しているが、容量は8GBとプロ向けの製品の半分のメモリ容量である。 Radeon Vega Frontier Editionは一般的なグラフィックスワークステーション向けで、空冷と水冷の製品がある。空冷の製品の消費電力は300W、水冷の製品は350Wとなっており、コンシューマ向けと同様に、水冷の製品は若干、クロックを上げていると思われる。ピーク演算性能は13.1TFlopsと空冷よりは高くなっているが、コンシューマ向けの13.7TFlopsには及ばない。この製品は、グラフィックス用であるので、ECCはサポートしていない。

Radeon Pro WX 9100は通常のサーバやスーパーコンピュータ向けであり、消費電力は250Wで12.3TFlopsとなっている。こちらは長時間連続する科学技術計算を行う用途にも使われるので、ECCが付いている。そして保証期間も3年で、さらにオプションで7年間延長することができるようになっている。

Radeon Pro SSGは、以前にFiji GPU版のプロトタイプが公開されたSSD搭載GPUの製品版である。プロトタイプでは512GBのSSDを2台搭載して、1TBのストレージであったが、今回の製品版は2TBと2倍のストレージ容量となっている。

値段は、Vega Frontier Editionの空冷版が999ドルで、これはトップエンドのグラフィックスGPUとしては安めの価格である。そして、水冷版は1,499ドルで、空冷との性能差の割には少し割高という感じである。

Pro WX 9100の2,199ドルは、まあ、プロ用でECCが付き、保証期間が3年などということを考えると、妥当な価格と思われる。

よくわからないのは、Pro SSGである。6,999ドルという値段がついており、Pro WX 9100と比べて4,800ドル高い。1TBのSSDが2台増えているが、それにしては高すぎる価格である。また、Pro WX 9100は基本3年の保証期間であるが、Pro SSGは2年しか保証がついていない。Samsungでは3年保証というSSDが出ているのに、なぜ、AMDのSSDは2年しか保証できないのであろうか? 謎である。

Vega 10製品の諸元と価格の一覧表。SSDの付いたPro SSGは6,999ドルとべらぼうに高い