長年の取り組みの結果、成功に必要だとわかったものとして、小柳津氏は5つのポイントを紹介した。
まず効率性と利便性を向上させるものとして「オフィス」と「モバイル」の環境整備がある。モバイルの環境整備は業務システムのクラウド化やコラボレーションを強化する各種システムなどだ。オフィスの環境整備は、Face to Faceの場としてコラボレーションしやすい環境づくりのことを示す。
「我々は、まずここに取り組んだ。格好のよいオフィス。とても便利なシステム。こういったものを用意すれば全員が毎日使ってくれるだろうと思った。実際には使わなかった」と小柳津氏。不足していたのは、リスクへの対応だという。
これがもう1つの大きな仕組みである「安心・安全」を構築する「労務管理」と「情報管理」だ。在宅勤務やモバイルワークを検討するときに、よく見られていないことによるサボりや、働き過ぎがないかと心配される。当然マイクロソフトでもここは検討し、労務管理の新しい仕組みが作られた。さらに情報漏洩を防ぐ仕組みも強化された。
「マイクロソフトは労務管理や情報管理を諦めたり、緩めたりはしていない。むしろ非常に厳しくやっている。社員はコンプライアンスに関する正しい知識と振る舞いを求められるが、それを求めるだけではリスクを社員に持たせているだけ。会社として情報漏洩や労働強化にならないことを保証しなければならない。そうすれば、会社が守ってくれるから安心だということになる」と小柳津氏は語る。
ここまで制度を整え、システムを構築しても、実際の普及にはまだ時間がかかったという。それは企業文化の変化にかかる時間だ。リーダーシップを持って時間をかけて啓蒙・開発を行いつづけ、1人1人の考え方や興味、ベネフィットにそった展開を行わなければ定着しないという。
「圧倒的に便利になることと、圧倒的にリスクがコントロールされていること。これがトレードオフではなく両立していないと、働き方の多様性を支える仕組みとしては十分ではない。さらに企業文化の刷新。この5つがそろったことで、マイクロソフトは現在の働き方ができるようになった」と小柳津氏は失敗を含めた取り組みの流れを語った。
社員満足度と生産性を両立させれば採用や企業成長につながる
講演の最後には、マイクロソフトがこの取り組みによってどのような成果を出しているのか、KPIの紹介もされた。特に重要なものとして事業生産性の向上と、ワークライフバランス満足度があげられたが、事業生産性向上は26%、ワークライフバランス満足度は40%向上しており、働きがいのある会社であるというロイヤリティについても7%の向上が見られているという。生産性が向上するだけでなく、社員の満足度も高まっていることが重要なポイントだ。
一方で減ったものは、旅費/交通費をはじめとする各種経費だ。ペーパーレス化も進み、社員の移動や勤務時間が減ったことで、交通費などとともに光熱費などの経費も減っているという。また残業時間も大幅に削減。紹介されたKPIでは5%の削減となっていたが、これは昨年の調査結果であり、今年はさらに16ポイントの削減が見られたという。
「昔の社員は月に何百時間と残業していたが、今は以前よりハードワークしているのにほとんど残業がない。昔は時間を投資することで進捗できる仕事だったが、今は違う。心身ともに健全で新しいアイデアを出したり、いろいろな人との価値創造に携われないと難しい業務は進捗しない」と小柳津氏。女性離職率やメンタル疾患も減り、総合的な評価としても高いものになっている。
こうした取り組みによって成果を出し、外部からの評価を受けることは企業の成長に不可欠だという。それは、社員の満足度が高く働きやすい企業であるというPRがなされなければ、新しい優秀な人材が獲得できないからだ。企業が成長して行くために必要な優秀な人材を獲得するためにも、社員の満足度が高く生産性が向上するという、好循環を生み出せる働き方改革が必要であると小柳津氏は講演を締めくくった。