「ドローデータマネージャー」を活用した制作進行デモ

ここからは「正解するカド」の本編カットの制作事例について具体的な解説が行われた。

製作実例(完成版)。この場面の制作について解説が行われた

使用するのは東映アニメーションが独自に開発したツール「ドローデータマネージャー」。アニメーターがオーダーされた番号順に作業し、データを移送することで、制作が関与しないデータ管理を実現している。

では実際にどんな流れで作業が進むのか。

「正解するカド」は2Dと3Dのハイブリッドカットが多用されている作品だ。まずは3Dの当たりレイアウトが入り、コンテ撮に音を重ねたら、それをベースに3Dのレイアウトを作成する。この時点では2Dのための当たりはモブのように描かれている。

コンテ撮

3Dの当たりレイアウト

レイアウトチェック後は、PSDデータを出力し、これが作業開始素材となる。画面内に入っている矢印は光源の指示だ。演出の指示に合わせて光源を決め、これに合わせて影の入れ方が決まる。光源に合わせて背景の作業も進めていく。

ここでソフトをクリスタ(CLIP STUDIO)に移行する。紙なら動きのチェックに線撮やクイックアクションレコーダーが必要になるが、デジタルであればタイムラインで動きがチェックできるため、そうした工程が必要ない。

クリスタでの作業。タイムラインで動きがチェックできる

渡辺監督によると、「デジタル化としたといっても、やっていることはあまり変わっていない」という。デジタルが便利なのは、「作画が描いてきた芝居が正しいかそうでないか、チェックを動きで見られること」や「コピー機を使わずに簡単に拡大縮小してチェックできる」こと、「コピーペーストや特定の場所だけ変形をかけられる」などで、逆に不便なのは「タイムラインのタイミングと紙のタイムシートを別々に直さないといけないところ」とのことだ。

演出という立場ではどうだろうか。りょーちも氏によると、「紙の場合はカット袋に入っているものが真実だが、デジタルの場合はPSDのデータで完結できず、別の紙を見ないとわからないため視認性が低い」ことや、「レイヤーが非表示のまま再生したりすると、その部分の修正を見落としてしまう可能性もある」などの弱点もあるという。

ただし、「指示や動作がすぐチェックできること」や、「チェック時にレイヤーの非表示や透明度で視認性を上げられる」というメリットも感じているそうだ。

デジタル化でアニメ制作の何が変わるのか

東映アニメーションでは、自社開発したツールも制作で使用している。前述した「Draw Data Maneger」(ドローデータマネージャー)だ。

「Draw Data Maneger」の概要

同ツールの画面構成

作業者とその進捗がリアルタイムで記録される

SHOTGUNの作画管理ページに自動でステータスが記録・更新される

これは作画、演出、制作と作品をつなぐツールで、データフォルダをカット袋に見立て、ツール上でやりとりできるようにしたもの。作業のログがすべて取られており、進捗が秒単位で記録されている。集計表として個人の進捗状況や日報の管理も行えるという。

いわば、東映アニメーションのサーバを介して、ネットワーク越しにバトンを渡すようにして制作を進めるイメージだ。社内の作画スタッフや演出、監督のチェックなどはすべてサーバ上で行い、制作進行も社内ツールを使ってデータの移動を行う。

社外の作画スタッフやフィリピンスタジオのスタッフも、東映アニメーションサーバにデータの自動アップロード・ダウンロードすることで、遠隔地でも滞りなく作業が進行できるというわけだ。

デジタル化により場所の制約がなくなり、制作進行はオフィス内で、フィリピンのスタジオは現地で各自の作業を実施できる

同社では現在、デジタルタイムシートを開発中とのことで、りょーちも氏も「タイムシートがデジタル化すれば、より作業がシームレスになる」と期待を寄せている。

ただし、工程ごとに使用するアプリケーションが異なると、引き継げない情報が増えてしまう。そこで、共通フォーマットを独自開発することで各ソフト間をデータが行き来できるよう開発中だという。このデジタルタイムシートについては、渡辺監督も「もっと早く使いたかった」と運用前ながら絶賛していた。

紙で運用しているタイムシートをデジタル化した「デジタルタイムシート」

結局のところ、デジタルを制作に取り入れたことで何が変わったのか。同社スタッフへのアンケート調査では、作業スピードは意外と"変わらない"という返答が多かったとのことで、紙に比べて高密度に描ける分、クオリティが上がるというメリットを感じつつも、一方でスピードは遅くなるという意見も出たという。ただし、大半のスタッフが今後もデジタル作画を続けていきたいと答えている。

作業の内容や流れが大きく変わることへの不満がありながらも、デジタル化による計り知れないメリットも実感しているというのが現場のリアルな感触なのかもしれない。

デジタル制作に参加したスタッフのアンケート結果

『正解するカド』

2017年4月より、 TOKYO MX・MBS・BSフジにて放送開始(公式Webサイトはこちら)
[放送]
TOKYO MX1 : 4月7日より毎週金曜22時30分~
MBS : 4月11日より毎週火曜深夜3時00分~
BSフジ : 4月11日より毎週火曜24時00分~
[配信]
Amazon プライム・ビデオ 4月6日より 見放題独占配信(第0話 独占配信 / 第1話 先行配信) 第2話以降:毎週金曜 TOKYO MXでの放送後 配信予定

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