そして、2月15日からはANAの新たなチャレンジが始まった。それは、Pepperの自走だ。

これまでANAでは、Pepperに独自開発のアプリを組み込み、空港内の施設の場所等を音声または画像で案内するトライアルを成田や福岡空港で行っているが、これら空港には、毎朝倉庫からPepperをカウンターまで移送し、業務終了後、再び倉庫に格納するという作業が課題になっている。基本的に、空港は航空会社の持ち物ではなく、空港会社から間借りしている状態なので、Pepperを置きっぱなしにはできないのだ。移送中には転倒のリスクもあり、そうなれば破損の原因にもなる。

それを解決するのが、Pepperの自走なのだ。自走が実現すれば、時間ごとに場所を変えてPepperに異なる業務を担わせることもできる。

「福岡空港は昨年の7月から、成田空港は昨年の8月からそれぞれ3カ月の検証を行った上で導入しています。それぞれ単一業務でしたが、評価が終わったあと、空港本部に複数の業務を組みあせて業務をアサインしたほうが良いと提案しました。そこで宮崎空港では、手荷物、チェックインのカウンター前、ゲート、到着手荷物場において、時間ごとに案内や注意喚起を行いながら、それぞれの場所にPepperが自走して移動するという5つの業務を行う予定です」(野村氏)

人や障害物をどう避けるのか

自走を実現する上での課題は、人や障害物を避けながら、安全に目的地まで移動させることだ。ただ、そのためにビーコンやGPSを利用することは難しい。

「空港にとって航空会社は店子なので、ビーコンやWi-Fiを勝手に設置することはできません。また、屋内なのでGPSの精度も悪く、自走中にお客様にぶつかる危険性もあります」(野村氏)

宮崎での実験概要

そこで、同社が解決策とした選択したのが、新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)と共同開発した、マイクロソフト社製のホロレンズを使って、高精度な空間把握および位置推定できる仕組みだ。これは、ホロレンズが認識した空港内の位置情報を基にPepperを自走させるというものだ。

Windows 10を搭載した自己完結型ホログラフィック コンピューター「Microsoft HoloLens」(マイクロソフト ホロレンズ)。現実世界に光の3D仮想物体であるホログラムを重ねるように表示することで、複合現実(MR: Mixed Reality)を実現する

そして、ANAとNSSOLは2月15日から2月末まで、宮崎空港内(出発ロビー)において、この仕組みを利用し、Pepperの自走による空港案内業務の実地検証を行う。

この実証実験ではホロレンズによってマップをつくり、地点を覚え、Pepperが指定する経路をホロレンズとPepperが会話をしながら、安全・確実に移送する。当然、Pepperのセンサーを使って人を検知し、顧客に対する注意喚起も行いながら実証実験を行う(なお、移動はPepperが単独ではなく、係員が付き、注意喚起も行う)。


「マッピングと地点がホロレンズの役割で、地点移動のトリガーはPepperになります。PepperのメニューによってA地点からB地点に、B時点からC地点への移動を指示し、現在地と周囲の状況をホロレンズとPepperが通信しながら把握しています」(野村氏)

宮崎空港での検証の意義

Pepperの自走が実現すると、時間によって案内する場所を変更することが可能となり、将来的には自走しながら顧客に必要な情報を案内するなど、担当業務の幅が広がる。

野村氏も「これができれば、Pepperは点ではなく、面で仕事ができるようになります」と語る。

そして、同氏は最後に宮崎空港での検証の意義や将来の利用法を次のように説明した。

「1台月額55,000円のPepperを1日12時間、1カ月間休みなしで利用すれば、Pepperの時給は約150円になります。それが本当に成り立つのかを検証します。さらに、Pepperを使えば、『○○便のお客様、搭乗ゲートにお集まりください』『○○便に搭乗予定の○○様、出発時間がせまっています』とったことを中国語で案内することも可能になります。われわれは、常に人とPepperの良い組み合わせができないかを考えています。単純に、人の仕事をロボットが奪うという話ではなく、人がカバーできない部分をロボットがカバーするとか、人が伝えきれないことをやってもらう。それによって、人は別なことができます。その組み合わせによって、サービスの品質を上げられないかを検討しています」(野村氏)

お話を伺った、ANA 野村氏(右)とANA向けのPepperの開発を担当するANAシステムズ IT企画部 技術革新チーム マネージャー 和田正太郎氏(左)(Pepper World 2017にて)