現場導入は高価格化が狙える作物から
データの収集と分析による効果は十分に見込めるが、実際の現場導入となると、しばらくは限られた場からになりそうだ。同氏は「従来は研究者にしかできなかったようなアプローチが、ドローンによる簡単な空撮の実現と、マルチスペクトルカメラが安価になったことで手頃に使えるようになりました。しかし、それでも一般農家が導入するにはまだ高価なものです。質の向上で高単価が狙える果樹農家の方が露地物よりは導入しやすいかもしれません」と指摘する。
それ以上に現実的なのは、農家がドローンなどを購入して利用するのではなく、サービス化されたものを、その都度利用するような方式だ。例えば、ドローンを1度飛ばして撮影してきたものを画像解析し、提供するというような使い方が考えられるという。これは小型飛行機による農薬散布で、すでに導入されている方式に類似している。
一方、休坂氏は「今後、ドローンの購入ハードルが大きく下がることがあれば、普及はしやすいと思います。ハードウェアとして低価格化されるだけでなく、公的な補助金が受けられるようになるなどの可能性はありますね」とも語る。
まだカジュアルな利用には遠いが、勘や経験を見える化して専門知識をAIが補助するような形で、強力なソリューションとして確立すれば導入が広がる可能性は十分にありそうだ。そこで「まずは、これを使うといくら稼げるということを明確にしたいですね」と同氏は今後の可能性に期待を込めた。
論文化や特許取得、そして海外展開
現在は農作物の育成に関する研究が主体だが、畜産業への技術応用も予定されている。これはサーモグラフィーを利用した家畜の体温検知や、移動量検知によって繁殖期を見分けることで作業者の負担軽減や効率化を実現するものだ。家畜1頭ごとにセンサをつけるのではなく、畜舎1棟に対して1つのカメラというような形で対応することで低コストなITの活用ができるのではないかと考えられている。休坂氏は「畜産については、どのような畜舎の構造ならばどれくらいの広さ、何頭くらいまでをカバーできるのかなど、まだ検討中です」と述べている。
産学官連携による今後の展望として「3年間で稼げる農業の実現を目指しています。プロダクト自体は常に改善したものを投入しますが、効果まで見える形にしたいですね」と意気込みを語っており、すでに特許を取得している技術もあるが、近い将来さらなる結果が得られそうだ。そして、この研究および実証実験の中から複数の論文や特許が出てくる可能性もあるという。
同氏は「農業分野では品種改良したもので商標を取得するというのはありますが、特許はあまり進んでいません。この研究に関しては共同特許という形で特許も取得し、海外展開にも備えたいと考えています」と将来的な特許取得について言及した。国内外に向けて佐賀の農作物や、佐賀で培われたさまざまなノウハウが姿を現してくれる日を期待したい。