機体デザインに込められた意味
強化型では、機体のデザインも若干変更されている。目をひくのは、中央付近に描かれた2重の矢(ダブルアロー)。これは、イプシロンロケットの革新性がこれからも続くことを表しているという。また、射場がある肝付町の伝統行事が流鏑馬(やぶさめ)であり、このイメージも重ねた。なおダブルアローについては2号機限定の塗装になるそうだ。
そしてもうひとつは、ちょっと気づきにくいのだが、細いラインの色の変更だ。太い赤線の隣に描かれているもので、従来は銀色だったラインが、強化型では紫色になっている。赤と紫は光のスペクトルの両端であり、この2色を描くことで、幅広く利用できるロケットを目指していることを表しているという。
日本の固体ロケットは東京大学にルーツを持つこともあり、長らく科学分野だけで使用されてきた。イプシロンも2号機までは科学衛星となるが、3号機では地球観測衛星「ASNARO-2」を搭載する。科学衛星から実用衛星まで、国内衛星から海外衛星まで、官需衛星から商業衛星まで、イプシロンを幅広く使って欲しい、というわけだ。
JAXAは、イプシロンの顧客となり得る海外衛星の需要を「年間5機程度」と見る。この獲得を目指すうえで、まず大きな課題はコストだ。以前、森田プロマネはコストについて「定常段階で38億円」と説明していたが、H3がまだ開発中ということもあり、最終目標の金額については現在検討中とのこと。これをどこまで下げられるかが鍵になるだろう。
イプシロンの強みとして、森田プロマネが挙げたのは利便性の高さだ。振動の少なさや、投入精度の高さは、試験機で実証済み。衛星分離時の衝撃の低減は、3号機で適用する。また柔軟な対応が可能ということもアピール。2号機では衛星側からの要望により、電波をシールドする追加対策を射場にて行ったこともあったそうだ。
低コスト化を進めつつ、プラスアルファの付加価値を出していくことで、今後増加する小型衛星のニーズに対応する。森田プロマネは、「国内外の需要を取り込み、数年先には年間2機くらいのペースで打てるようになれば」と期待。そのためには、まずは2号機の打ち上げを成功させ、その後も実績を重ねていく必要があるだろう。
森田プロマネの自信のほどは?
試験機では2回目の挑戦で成功したものの、1回目には直前(19秒前)の打ち上げ中止という、産みの苦しみもあった。この原因はソフトウェアの不具合であったが、その後、再発防止の対策として、総点検活動の常時化、エンドツーエンド試験の徹底、などに取り組んできたそうだ。
今回の自信を問われた森田プロマネは、「打ち上げに100%の自信は絶対必要だが、自信があっても成功するかどうかはわからないという世界。ひとみ(X線天文衛星)の件で思い知ったのは、我々はどんなに気をつけていても、成功と失敗の狭間にいるということ。ちょっとでも自信がない部分があれば失敗に直結してしまう」とコメント。
しかし、そんな厳しい世界であっても、「今までみんなで考え抜いてきた。それが自信になっていて、今は100%を超える数字が私にはある」と森田プロマネは語る。現在、2号機は射場で全段の組み立て・点検を行っているところ。今後、リハーサルを実施してから、いよいよ本番の打ち上げに臨む。