一方の立ちこぎについては、骨盤とサドルを非拘束としたほか、手もピッチ方向だけを固定して5自由度を確保。姿勢の制約については、文献からペダル角を採用して、関節運動を決定した。また、立ちこぎでは揺動運動(ダンシング)の有無があるため、これがある場合は文献値から6°の角揺動として自転車を揺動させた状態で関節角を求めた。その結果、誤差は8%と、目標の10%に収まり、最大揺動角も6.1°と、文献値と大きな差異は見当たらなかったが、推進負荷の波形が合っていないところがあるため、検討の余地があるとした。

立ちこぎにおける関節運動の決め方

同氏は、「自転車の揺動は、踏み込みにおけるクランクトルクを増大させ、引き上げにおけるクランクトルクを減少させる。選手が最後のスパートでこぐときは、踏み込みで力を出したいということで、ああいう動作になるのではないか、ということが示唆された」と、研究から得られた結果を説明したほか、なぜ、立ちこぎだとトルクが増すのか、という点については「腕で自転車を引き上げつつペダルを踏み込む、というイメージと聞いており、原理としては、踏み込むときに、操舵して踏み込んでいる、ということになると考えられる」との説明を行った。

立ちこぎのシミュレーション結果

また、車いすマラソンのシミュレーションについてだが、「リオパラリンピックで日本は男子7位、女子4位という結果。1960年の第1回パラリンピックから採用されている種目で、年々、スピードアップしており、現在は平均速度30km/h、最高速度は約70km/hとなっており、42.195kmを1時間半を切るくらいで走りきるようになってきた。この進歩は、選手の努力と車いすの進歩、つまり人と用具の兼ね合いによるところが大きいが、現在、選手の位置と車輪の位置関係や高さ、それによるハンドリムのこぎやすさといったものは理論的に解明されていない」とのことで、最適なフォームの探索をシミュレーションで補助したい、という思いがきっかけになったとする。

マラソン用車いすにはさまざまな規定が存在する

ちなみにマラソン用車いすにはさまざまなレギュレーションが適用されるが、剛体の要素としては「3つの車輪」、「2つのハンドリム」、「車軸」があり、力要素の設定については、「路面-車輪間」、「手-ハンドリム間」、「人体格関節間」があり、中でも手-ハンドリム間の数値化が複雑であったという。研究では、ローラ上に車いすを固定し、モーションキャプチャによる動作データやハンドリムにかかる力などを取得。その結果として、シミュレーションでそれらを再現することに成功し、選手が発揮する関節トルクについての知見を得ることができたという。

シミュレーションモデルの概要とシミュレーション結果

ただし、「まだまだやることが多い。例えば、ホイールに働く力と関節トルクに働く関係についての調査を行うことで、どういった漕ぎ方がよいのかといったデータをフィードバックできるのではないかと考えている」とさらなる研究を続けていく必要があることを強調。シミュレーションの活用度合いの向上などを図り、新たな成果を今後も競技者などに提供していければとしていた。