最初に検討したのは、リバースオークション専用のシステムだった。初期費用、ランニングコストにかなり費用はかかるものの、調達コストを抑えられるのであればと、本格的に検証を行った。ただ、専用システムは多くの機能が搭載されており操作も複雑で、メンバー全員が使いこなすのは困難だった。これではスキルの平準化を目指しておきながら、特定のメンバーだけが運用に精通する状況になりかねない。
メンバー全員が同じように使いこなせるという観点で、次に着目したのはLINEに代表される無料チャットアプリだった。チャット形式でリバースオークションを開催できないかと考えたのだ。しかし無料チャットアプリは個人向けのサービスなのでセキュリティ面が懸念される。そこでセキュリティ対策を施した法人向けチャットアプリを検討した。
「20社近くの製品を試し、最終的に一番シンプルで使いやすいソフトバンクの『PrimeChat』を選択しました。専用システムほど多機能ではないが、リバースオークションを開催するには必要十分の機能でした。『PrimeChat』は個社毎に専用の仮想環境を作って情報を管理でき、管理者権限で機能制限もかけられるため、セキュリティの確保がされ使い勝手良く運用できると評価しました」(草野氏)
リバースオークション専用システムに比べて数十分の一のコストで利用できる「PrimeChat」だが、専用システムに備わっている、リバースオークション機能を効率よく実現するために必要な事前の条件設定や実施手順などについては、独自の運用ルールを策定しなければならない。
運用ルールを綿密に決め、参加サプライヤには説明会を実施
「課内メンバーで『PrimeChat』による試験運用を徹底的に実施し、運用方法を固めていきました。管理者としてどのタイミングでどのような発言をするか、参加者が金額を誤入力した際の救済方法、入札の意思なく入室している企業に対する強制退室、参加者の上司やアシスタント用に閲覧のみのアカウント発行、あらかじめ設置した最低金額を複数社が提示した場合の決戦ルールなど、あらゆる場面をシミュレーションしてルールを文書化しています。実運用開始前にはサプライヤを集めた説明会を実施してリバースオークションのルールや『PrimeChat』の使い方を説明しました。」と資材部 資材第二課の坪井慎平氏は振り返る。
「PrimeChat」の利用でリバースオークション開催数が増加
2016年6月よりリバースオークションをWeb開催に切り替えたことで、会議室に実施していた頃と比較し、開催数は増加した。時間や場所の制約が緩和されたのに加え、会社名を公表せずに匿名でリバースオークションに参加できるルールを設定した事も参加のハードルを下げたという。
「チャットのタイムラインに表示する名称はサプライヤの任意で設定できるので、価格情報を他社に知られずに済むようになったのは大きいと思います。また、多くの人が使い慣れているチャットと同様の使い方なので、操作面のハードルも低くなりました」(草野氏)
「以前はサプライヤとの予定調整や会議室の確保、当日のサポートなど1回開催するのにもリソースがかかっていましたが、今は事前の会場準備が不要になり、オークション当日も当社スタッフが2人でチャットに参加するだけで実施できています。開催頻度が増えても、運用負荷は増えていません」(坪井氏)
運用スキルやノウハウの共有にも積極的
「購買活動で相見積は不透明で属人的になりがちでしたが、業務プロセスを見える化し、新たに公正、公平な購買の運用を確立することに価値があると思っています。2016年9月より当課の調達はさらに品種を拡大しリバースオークションで実施します。ここで得られた知見は沼津工場だけでなく、他工場にも広げていき、将来的に他社様がOKIに資材調達を依頼できる仕組みを作れたらいいと考えています」(草野氏)
コスト削減と公正公平な購買活動を目指し、チャットツールを利用したリバースオークションという新たな調達手法を確立させたOKI。馴れ合いにより行われがちな購買活動をリバースオークションへとシフトさせたいと考える企業にとって、低コストなチャットアプリを選択した同社のユニークな取り組みは大いに参考になるのではないだろうか。