――応募側が求めるグッドデザイン賞(Gマーク掲出)の価値や意味は変わってきているとお感じになりますか?
永井 : もともと、応募する企業からの期待はGマークという「お墨付き」がつくことで販売が促進される側面が非常に強かったように思います。
しかし現代の生活者は、自分自身の価値観やリテラシーをもって商品やサービスを選択しますので、グッドデザイン賞のマーケティングへの寄与という役割は、以前とは変化してきていると思います。デザインを大切に考えるという価値観への表明を通じて生活者とのあらたな関係をつくる上で応募されているのではないでしょうか。
また、これだけ社会の価値観が複雑で多様化している中で、自分がつくったものがデザインの生態系の中にどう位置づけられるのかを確認するためにエントリーしているという側面もあるように思います。
柴田 : いろいろな応募者がいらっしゃるので一概には言えないのですが、これまで大企業では対外的にというより社内において、グッドデザイン賞受賞に意味があるようにとらえられていたこともあるかと思っています。ですが、今はグッドデザイン賞を受賞したことで、自分たちだけでなく生活者に対して、信頼してもらうことの証明のように活用されているように感じます。
――たとえ話になりますが、仮にグッドデザイン賞がグッドデザイン賞にエントリーしたとして、どういった部分が評価ポイントとなると思われますか?
永井 : 贈賞という活動を通じて、生活者や産業、社会のデザイン意識の向上を担いながら、実際にこれだけ長年機能し、結果を生んできていることが、評価のポイントになるのではないかなと思います。
柴田 : まずは、その年、その瞬間にあわせて仕組みをバージョンアップし、時代に適したモノに仕上げていこうとしているところでしょうか。
そして、多岐にわたるデザインを扱う賞というユニークな特質ですね。こうしたダイナミズムはほかの賞にはないと思っています。
いろいろなものを受け入れ、多くの要件を調整しながら皆でなにかを作ったり……例えるなら、八百万の神を受け入れるような気持ちというか、そうした日本的な部分、その懐の深さがユニークな部分なので、そこは評価したいなと思います。
――いまの時代に求められる「グッドデザイン」とはどんなものでしょうか?
永井 : いまは、時代の大きな変わり目だと感じています。成長型社会から成熟型社会への踊り場であり、世界情勢が大きく動く中で日々新たな課題が生まれ、テクノロジーが生活に浸透し、社会のありかたが大きく変化していく時代です。
その中でデザインは未来を提示し、未来を発信していく役割を、これまで以上に担うだろうと思っています。自分たちの暮らしや社会の未来にどういう新たな価値をもたらすことができるのか、その視点を持ったグッドデザインが増えてくることを期待したいですね。
柴田 : 世の中にはいろいろな「よいデザイン」があると思うんですね。便利、人気がある……そういう要素をもつモノも「よいデザイン」かもしれませんが、グッドデザイン賞で取り扱う「よいデザイン」というのは、そうした人間のニーズに単に対応するだけではなくて、みんなが「そっちの未来のほうが、人間らしくていいよね」と言えるものを、グッドとして評価していると考えています。なので、今の時代に求められているのは、本当の意味で人間らしく生きられることに関与してくれるデザインだと思っています。