IoTやマシンビジョンなどの用途では、格子などの規則的なパターンを対象に投影し(これをStructured Lightという)、そのパターンの歪みから、対象物の凹凸や奥行きを測定することが行われる。可視光で格子を投影すると目立ってしまい、表面の色などの影響も受けてしまうが、880nmより長い波長の赤外線を使えば、人の目には見えずに測定ができ、真っ暗なところでも測定ができる。
次の図の赤で書かれたスペクトル分布は、海抜0m付近の太陽光のもので、940nmのところに水蒸気による吸収があり、光の強度が大きく落ち込んでいる。従って、格子などの投影をこの波長の光で行えば、太陽光による影響を小さくすることができる。
940nmの波長を使う場合、シリコンの量子効率は8%であるが、量子フィルムを使えば35%という高い量子効率が得られる。右の上側の量子フィルムセンサで撮ったイメージはギターなどに格子が投影されているのが見えるが、シリコンセンサで撮ったイメージは非常に暗く、見難い。
次の図は、同じことをグラフで表わしたもので、シリコンと量子フィルムの量子効率の違いは、850nmあたりから大きな差が出てきて、940nmの波長では5倍(8%と35%なら4.4倍であるが…)も違っている。
感度が高くなれば、その分ピクセルを小さくでき、解像度を向上できる。量子フィルムセンサのピクセルを1.1μmとすると、同じ信号を得るには、シリコンセンサの場合は3μmのピクセルが必要である。
右の写真は、850nmの波長で10m離れた位置にあるドローンにStructured Lightをあてて撮影したもので、上が量子フィルムセンサ、下がシリコンイメージセンサで撮ったものである。上の写真では格子が見えるが、下の写真では格子どころかドローンの識別も難しい。
量子フィルムセンサの感度が高いので、ピクセルを小さくし、解像度を上げることができる。量子フィルムセンサを使った上の写真では格子が見えるが、シリコンセンサによる下の写真では格子は見えず、ドローンの形状もはっきりしない |
Structured Lightのレーザ光源は、量子フィルムセンサでグローバルシャッタの場合は、0.52msの間、680mWの光源を照射すれば良いが、シリコンCMOSセンサの場合は、200mWの光源を連続して照射する必要がある。このため、レーザ光源の消費電力は、量子フィルムセンサの場合は8mWで済むが、シリコンCMOSセンサの場合は200mWを必要とする。
太陽光の50%以上は赤外線で、シリコンのセンサは飽和してしまうので、屋外では計測には使えない。直射日光の下で撮影された2枚の写真の、左側はシリコンセンサの場合で、投影された格子が見えないが、右側の量子フィルムセンサの写真では、格子が良く見えている。
量子フィルムセンサは赤外線での感度が高いので、高出力のレーザをパルス的に照射することで、太陽光の影響を99%除去でき、屋外でも使うことができる。
量子ドットを使うイメージセンサはダイナミックレンジが広く、銀塩フィルムに近い応答が得られるということで、可視光で撮影するカメラのイメージセンサとしても優れているが、赤外光のセンサとして優れており、Structured Lightの受光素子として威力を発揮する。Structured Lightを使った奥行きの認識という用途は大きく伸びて行くと考えられ、量子フィルムセンサの需要は大きく伸びて行くと考えられる。