一方、屋内用サイネージディスプレイについても新たな挑戦として、ワイヤー吊り下げ設置や水平・下向き設置などを可能とするインフォメーションディスプレイの出荷を10月以降、順次行っていくことを計画している。「従来のインフォメーションディスプレイは上下20度の角度が限界とされていた。しかし、タッチパネルを活用する上では40度の角度が最適といわれており、今回のモデルでは、そうした新たな用途での最適解の提供を目指して開発が進められてきた」(同)とのことで、新たな空間演出の実現に向けた活用が期待できるようになるとする。
タッチパネルに最適な角度(40度)に設定されたデジタルサイネージのデモ。水平にも置けるため、テーブルや床、天井などにも付けることが可能 |
参考展示されていた曲面液晶ディスプレイ。2016年3月にJR大阪駅の中央コンコースにて実証実験が行われた |
また、メディアプレーヤー機能を内蔵したモデルも展開。USBメモリやSDカードを本体に挿しておき、「e-Signage楽々配信くん」と呼ぶ同梱ソフトを用いることで、FTP経由でメモリ内のデータ書き換えが可能となったため、遠隔地から一括で複数のサイネージのコンテンツを変更させる、といったことなどが可能となった。
「e-Signage楽々配信くん」のデモの様子。PCからFTP経由でデジタルサイネージに挿さっているUSBメモリやSDカードに保存されているコンテンツを書き換えることができるため、遠隔地のデジタルサイネージであっても、手軽にコンテンツの差し替えができる |
こうしたデジタルサイネージの機能が拡充されていくにつれ、先述のとおり、その適用範囲も拡大しており、駅広告が中心であることに変わりはないが、行政や小売り店舗での各種案内の表示、果てはオフィス内での営業情報などの表示といった分野でも活用が進んでいる。そうなると顧客ごとの課題もさまざまであり、「必然とコンサルティング業務からスタートし、設置、保守、コンテンツ制作まで一通りサービスとして提供していく必要がでてくる」という。そのため、e-Signageはオンプレミスでの提供が基本だが、「例えば、オフィス内での情報表示などの場合、社内の情報システム部門が運用管理の複雑化の問題から、サーバを含めてアウトソーシングを活用したいというニーズが強く、ASP(Application Service Provider)での業務提供を求められるほか、店舗活用の場合、コンテンツの制作まで含めたBPO(Business Process Outsourcing)として利用したいというニーズもある」とのことで、現在は、案件ごとに対応を図っているようだ。
すでに、BPO案件としては、サーティワンアイスクリームの愛知県名古屋市にあるmozoワンダーシティ店にて5台の47型ディスプレイを並列に設置し、同社が用意した素材を用いてシャープ内のコンテンツクリエイターチームにてコンテンツとして制作を行い、好評を博しているという。こうした取り組みを背景に高森氏は、「デジタルサイネージは成功しないとビジネスとして続いていきません。顧客に成功してもらう仕組みとして、我々は社内にコンテンツクリエイターチームを用意することで、コンテンツの製作コストを低く抑えつつ、顧客も最終消費者も満足してもらえる取り組みを進めるといった支援も行っています。現在、カメラワークなどへのこだわりも強化しており、社内外のクリエイターなどと連携を図ることで、より魅せるコンテンツ作りに向けたノウハウの蓄積を進めています」と、デジタルサイネージ分野におけるシャープは単なるディスプレイベンダではなく、コンテンツをいかに魅力的に見せるか、を意識したソリューションベンダへと変貌を遂げつつあることを強調。今後、さらなる顧客視点でのソリューションの提供を目指し、デジタルサイネージで街そのものを変えて行ければ、と夢を語ってくれた。
現在、多くの駅や店舗でデジタルサイネージの活用が進みつつあるが、国内で考えれば、2020年の東京五輪開催に向け、コンテンツの多言語化対応や、より細やかな訪日外国人旅行者に対する案内の実現といった新たなニーズも生まれつつあり、デジタルサイネージ市場は単にディスプレイを設置して広告映像を表示する、といった用途から、新たな役割を持つ時代に入ってきたといえる。そうした意味でも、シャープの単なるハードウェアの提供から、コンテンツ関連を拡充させる取り組みの方向性は理にかなった戦略と思える。実は同社はこれまでもコンテンツ関連の拡充を粛々と進めて来ていたのだが、ここに来て、そうした取り組みがようやく日の目を浴びるところまで育ってきたとも言え、もしかしたらこうした取り組みが将来の同社のビジネスの一翼を担う可能性も出てくるかもしれない。