量産化はCerevoが支援

「Orphe」は今回の一般発売までに、約2年半の開発期間を経ている。今回の会見の舞台ともなっている「DMM.make AKIBA」の開設当初(2014年11月)よりこの施設に入居。プロトタイプの制作にあたり、「DMM.make AKIBA Studio」に設置された3Dプリンタ、5軸CNC、チップマウンタなど総額5億円規模の機材を活用した。試作版までは独力で開発できたものの、量産に耐えうる設計を行うのは難しいと判断し、Cerevoの支援を受けたことでこのたび、量産版の一般販売を迎えたと経緯を説明した。

Cerevo 代表取締役 岩佐琢磨氏

Cerevoは「DMM.make AKIBA」関係企業の中でもIoTデバイスをいち早くリリースしてきた経験を活かし、no new folk studioをはじめスタートアップに対する量産支援を業務として開始している。サプライチェーンの開拓、プロダクトの量産ノウハウの提供などを実施している。現在、同社を含め5社の量産支援を実施中という。

Cerevo 代表取締役 岩佐琢磨氏は、今回のようなスタートアップ支援の取り組みについて、「プロトタイピングと量産のあいだをつなぐ課題の解決には、ノウハウが重要です。決して難しいものではありませんが、あらかじめ知っておかないと資金をロスするだけでなく、製品によっては命にかかわるトラブルが起こりうるリスクがあります」とコメント。Orpheの量産に際しては、電気設計と組み込みソフトをCerevoのエンジニアがチェックし、部品の選定などノウハウが必要な部分を支援したとのこと。

Orpheを実際に履いた様子

Orpheのようにこれまで電子部品が組み込まれていなかったアイテムをIoTデバイスにする試みでは、工場の選定や運用が難しい。「例えばスマートフォンの工場に持ちかけても、『靴なんか作ったことがない』と言われてしまい、逆に靴の工場に声をかけると『電子部品なんて見たこともない』と尻込みされる」(岩佐氏)のが現状だ。Cerevoがスノボ用デバイス「SNOW-1」の開発で同様の難局を乗り越えたノウハウが、今回の量産に活かされた。

結果として、靴工場の多いエリアである浙江省、今や電子機器工場として世界的に知られている深センの部品工場、そして遼寧省・大連市の基盤工場と、中国の3地域を結んでようやくOrpheの生産が実現した。岩佐氏によれば、各工場の役割分担と、不具合が起こった際の責任範囲(責任分解点)の設定が非常に難しかったそうだ。

このようなスタートアップの支援の事業規模について、岩佐氏は「このような支援を専業にしているわけではないので、お世話になったDMM.make AKIBAや後進のスタートアップの方に還元できれば。コンサル業務としてずっと"搾り取るということはないです」と付け足し、菊川氏に顔を向けつつ「ここからは独力でがんばってほしい」と激励した。

開発段階から各界のクリエイターとコラボを実現

山本寛斎氏デザインを施したもの(左)、水曜のカンパネラ・コムアイ氏サイン入りOrphe(右)。各界のクリエイターと量産化前からコラボレーションし、ショーや映像で露出してきた

記者会見では、試作段階から複数のクリエイターとコラボレーションしてきた成果も紹介。ファッションデザイナーの山本寛斎氏がオリジナルOrpheをデザインしたほか、邦楽アーティスト・水曜のカンパネラ(コムアイ氏)、ダンサーのケント・モリ氏、AKB48といった面々が同製品を履いてパフォーマンスを行った。今回ミュージアムショップでの製品販売も行う金沢21世紀美術館では、9月25日までOrpheを用いたインスタレーション展示も行われる。

豪華な面々のコラボレーションは、製品仕様を公開しながら開発を進めたことで生まれたと菊川氏は語る。製品を履いてほしいユーザーのイメージを開発側から発信したことで、こうした機会が実現したとのこと。「幸運な結果として、Orpheを履くならこの人がいいのでは?と紹介してもらうことがその都度起きました。映像監督の関根光才さんが(製品を展示した)SXSWにいらしていて、お仕事で使いたいと思っていただけたことが、トヨタ・ヴィッツのCMでの事例に繋がりました」(菊川氏)

質疑応答では、消耗品の側面が強い靴であるOrpheのアフターサービスが問われ、初期の故障は無償交換で、履いてある程度利用した後の故障は「有償の交換ないし修理」で対応すると回答。靴というカテゴリの中では高価であることにも触れながら、「例えば1年以内で新品交換することになった場合、半額からそれ以下の価格で交換可能な価格体系を用意している」と言及した。