14万5000店が自分の手で情報を発信
飲食店情報のポータルサイトとして1996年に誕生し、20年の歴史を誇る、ぐるなび。今や飲食店選びのスタンダードともなっている同社のサービスだが、これまでに蓄積された20年分のビッグデータは、外食市場から食のトレンド動向を読み解くことにも役立っているという。
ぐるなびの人気の理由の1つとして、加盟店約14万5000店の最新かつ正確な一次情報が掲載されている点が挙げられる。それを可能としているのが、それぞれの店が自分で管理画面にアクセスし、発信情報を更新できるシステムである。現在、毎日1万5000店が、メニューの詳細やドリンク、空席情報などを更新しているという。
店自身の手で容易に発信情報を更新できる管理画面は、訪日外国人向けの「ぐるなび外国語版」でも同様に提供されている。ぐるなび外国語版の管理画面では、同社が開発したオリジナルメニュー変換システムを採用。このシステムには、2300のメニュージャンル、1000の食材、40の調理方法などがあらかじめ日本語でリスト化されており、リストを選ぶことで自動的に英語、繁体字、簡体字、韓国語の4カ国語に変換され、外国人にわかりやすい表記となるようになっている。
ぐるなびの執行役員で、営業本部加盟店営業部門ブロック長兼企画開発本部海外拠点事業推進室長の杉山尚美氏はこう語る。「当社のインバウンドでは、来日した方々への情報発信に加えて、そうした人達が母国に帰るなどすることで、海外に日本食のファンを広げるという、国内外向け双方のアプローチを展開しています。その根幹にあるのは、日本の食文化を守っていきたいという強い思いなのです」
ビッグデータを活用し、4カ国語のメニューに自動変換するシステムを開発
ぐるなびの多言語対応がスタートしたのは2004年のことだが、この時は基本的なインフォメーションやグランドメニューなどの情報発信に限定されていた。その後2012年4月、インバウンド研究会を発足させたのを契機に、本格的にインバウンド事業に注力することとなる。研究会には、観光産業に造詣が深いメンバーが集い、インバウンド施策を研究するとともに、研究成果を情報発信・提言している。これにより国内の観光産業を活性化することを目指しているのである。
また、外国語版のリニューアルに向けて、飲食店のメニューに使われている用語の精査を進めたという。意味や言い回しが似た用語を整理する作業では、同社が有するビッグデータがベースとなった。
日本の飲食店のメニューは非常に豊富なうえ複雑だ。そのうえ店ごとに個性的な名称をつけることも多いため、ただ機械的に翻訳したのでは、外国人が理解できる内容にはならない。オリジナルメニュー変換システムは、そうした課題を解決することを目指して開発が進められた。
「外国人がメニューを一目見て、それがどのような料理で、どのような食材を使い、どのような調理法で、どうやって注文すればいいのかまでをイメージできることを目指しました。『飲食店のサポーター』というのが当社の立ち位置ですので、飲食店が直面している問題があればその解決のための努力は惜しみません」と杉山氏は言う。
システムの開発では、外国人がメニューの内容を理解できるようにするだけでなく、日本語での注文方法を楽しんでもらえるような工夫も凝らしていった。こうして同社は2015年1月、オリジナルメニュー変換システムを採用した「ぐるなび外国語版」をリニューアルオープンしたのである。
リニューアルにより、システムを利用する加盟店は、時間やコストをかけなくても、旬の情報をリアルタイムに発信できるようになった。現在、多言語対応サービスを利用する飲食店は7万8000店にも及ぶ。ここにきて、ドリンクの情報提供サービスもスタートしており、日本酒であれば、生産地やアルコール度数、適した飲み方などの情報も加えられるようになっている。
「外国人を接客する際、英語が話せなくても対応できるでしょう。しかし、メニューがないと現場のオペレーションは大変です。まず、店の売りであるメニューをきちんと発信して来店を促し、それを印刷して店内でも活用すれば、外国のお客さまにもストレスなく料理を選んでいただけることでしょう。また、突き出しの習慣を知らなかったり、宗教上食べられない食材があったりすることも多いので、あらかじめ告知メニューを表示しておけば、トラブルを未然に防ぐことにもつながります」(杉山氏)