データの視覚化がもたらした2つの成果
では、データの視覚化は、どんな成果をもたらしたのだろうか。1つは、データ共有による意思決定の迅速化だ。
そもそも帝人ファーマでは、さまざまなデータを統合したデータベースを作ってデータの視覚化した上で、品質管理を行うことを標準的な業務として実施してこなかった。そのため、品質管理は出口管理となり、報告された治験のデータに何らかの不整合がある場合は、施設に連絡してデータを修正してもらい、その都度データを統合するなどの手間がかかっていた。時には、そうした1つ1つの確認作業が増えた結果、処理しきれなかった分が後ろ倒しになり、開発の最終段階にしわ寄せがくることもあったという。
「SAS Visual Analyticsは、こうしたデータの統合にかかわる課題を解決するうえで有効でした。利用可能なデータの構造や種類が柔軟で、担当者間でのデータの共有やレポートの作成も容易です。業務ニーズの変化や利用者の習熟などに応じて、必要なレポートを変えることもできます。タイムリーにデータを共有でるきようになったことで、迅速な対応が取れるようになりました」(齊藤氏)
例えば、開発担当者はモニター担当者や施設への注意喚起や対応依頼を速やかに行えるようになった。また、開発担当者が、試験設計に対して想定外の事象が発生していないかなどを逐次確認可能になった。こうしたことは、医薬品の販売に影響を持つ医師などの専門家(KOL)との情報共有やそれによるモチベーション維持に特に役立っているという。
2つめの成果としては、データに基づいたコミュニケーションが生まれてきたことが挙げられる。グループ内やグループ間で、モニタリングしたい事柄のデータ収集方法などについて、積極的に議論する雰囲気が生まれた。
「データが視覚化されていないと、何を見るためにどんなデータがほしいといった話は通じにくい面がありました。一方、データが視覚化されていると、視覚化された結果を見て、もっとこうしたほうがいい、そのためにはこういったデータが必要だといったように議論が活発化します。1つのデータに対する理解が深まり、それをもとに、新しい取り組みを実施しやすくなりました」(中島氏)
小さな成果から水平展開を図る
導入から2年を経て、データの視覚化の範囲は少しずつ広がってきている。臨床試験の品質管理を中心に取り組んだデータの視覚化は、今では、開発にかかわるさまざまなシーンで利用されるようになっている。
例えば、臨床試験の安全性データを用いた「安全性評価」や、臨床試験の被験者データを用いた「盲検化レビュー、探索解析」、臨床試験管理システムのデータを用いた「進捗、工数管理」などがある。さらに、こうした開発段階だけでなく、市販後の調査データや報告データを用いた「市販後の安全性評価」にも標準的な取り組みとして展開できると考えている。
「データの視覚化はリスクに基づいてモニタリング頻度等を変更しない場合でも有用です。ほかのプロジェクトへの水平展開を進めていこうとしているところです」(中島氏)
ビジュアル分析ツールやBIの導入では、期待どおりに活用されないことが多く、導入しただけで終わってしまうケースが少なくない。帝人ファーマがそうした事態を防ぐために特にこだわったのは「目的をきちんと理解すること」だという。
「データを用いて意思決定したい内容、つまり目的を理解したうえで実装することが大切です。目的を理解した実装を行えば、使う側はそれを使うことで実際に目的を達成することができるようになります。意味のあるシステムを作るには、作る側と使う側の相互理解が特に重要です」(中島氏)
中島氏は、開発部を中心に関係各所とのディスカッションを綿密に重ね、相互理解を深めることを心がけたという。また、齊藤氏はシステム導入においても、データに基づく意思決定のアプローチがポイントだとし、こう話す。
「データの視覚化の効果は定量的に説明することが難しい面があります。だからこそ、意思決定に妥当性を持たせるためのデータが重要になってきます。データを視覚化して論拠を見えやすくし、小さな成果から水平展開を図っていくようなアプローチが求められます」(齊藤氏)
データの視覚化に取り組み、確かな成果を得た帝人ファーマ。本格的なデータ活用に向けて取り組みをさらに加速させる構えだ。