臨床試験データを視覚化し、医薬品開発に生かす

帝人グループの中で、医薬品・医療機器の研究開発、製造、販売を手掛ける帝人ファーマ。自社開発した痛風・高尿酸血症治療剤の「フェブリク」をはじめとして、骨・関節、呼吸器、代謝・循環器の3つを重点領域に、医薬品、医療機器、付加価値サービスを組み合わせたヘルスケアソリューションをグローバル規模で展開している。

帝人ファーマ 医薬開発業務部 統計・データマネージメントグループ 統計チーム/IT推進チーム 中島章博氏

そんな同社における医薬品開発の現場で活用されているのが、さまざまなデータを視覚化し、新たな知見を獲得できるようにするビジュアル分析ツールだ。2014年度に「SAS Visual Analytics」を導入し、創薬・育薬の各段階でのデータ解析、品質管理、安全性評価に役立てている。帝人ファーマの医薬開発業務部 統計・データマネージメントグループ 統計チーム/IT推進チームの中島章博氏は、こう話す。

「医薬品の開発現場では、経験や勘だけではなく、データに基づいた意思決定が求められます。例えば、臨床試験のデータはデータの電子化、標準化、グローバル化が進み、データ活用のための環境が整ってきました。このような背景により、臨床試験のデータにタイムリーにアクセスすることが可能となりました。データを理解する上で、データの理解を促進させ、迅速な意思決定をサポートしてくれるのが『データの視覚化』です」

中島氏によると、臨床試験のデータは、紙の症例報告書や患者日誌から、EDCやePROと呼ばれる電子データへの移行が進み、データ形式もCDISC標準という標準形式が普及したことで、データ収集のプロセスの標準化が進んでいるという。さらに、海外医療機関と共同で治験を行う国際共同治験が増加し、世界中でデータをスムーズに共有する仕組みが求められるようになってきた。このような環境変化により、データをタイムリーに入手してデータを視覚化することで、データに基づく意思決定が可能となり、その重要性が増してきたのだ。

帝人ファーマ 医薬開発業務部 統計・データマネージメントグループ IT推進チームリーダー 齊藤康一氏

医薬開発業務部 統計・データマネージメントグループ IT推進チームリーダーの齊藤康一氏は、データの視覚化が迅速な意思決定にどう役立つかについて、次のように説明する。

「医薬品開発では、予定通りに医薬品の承認申請を行って承認を得ることが求められます。そのためには、臨床試験をスケジュール通り実施する必要があり、臨床試験のデータにエラーがあれば、できるだけ迅速にその原因を特定して取り除かなければなりません。データの視覚化は、そのような問題の発見や新しい気づきの発見につながります。関係者同士がさまざまなデータをタイムリーに共有することで、臨床試験の効率的な品質管理が可能になるのです」

リスクベースド・アプローチで臨床試験の品質管理を向上

臨床試験におけるデータの視覚化は、データの統合と、統合データの視覚化という大きく2つのステップで構成されている。

データの統合は、各所に散財しているデータを1カ所に集約するステップだ。データには、試験を実施する医療機関が作成する症例報告書データや、測定機関が作成する臨床検査値データ、帝人ファーマ側で管理する治験手続情報や文書管理システムに保存された各種データなどがある。それらを統合データベースに集約して統合する。

データの視覚化は、こうして作成した統合データをSAS Visual Analyticsにアップロードし、ユーザーがデータを利用できるようにするステップだ。データは、1日に2回、SAS Visual Analyticsに自動アップロードされており、手動での更新も可能となっている。主なユーザーは、治験業務をモニタリングしている臨床開発モニター担当者(CRA)だ。

モニター担当者は視覚化されたデータを見て、問題が発生していないか、治験が適切に行われているか、スケジュールに遅れがでていないかなどを確認する。例えば、臨床試験の進捗管理では、施設ごとの登録数や登録割合が目標に達しているか、登録から完了までどのくらいの時間がかかっているか、来院状況は規定通りか次の来院予定日はいつかなどを確認することができる。

画面は、定形レポートのような静的な表やグラフではなく、データの更新に応じて変化する。一方、自由分析のようにユーザーが細かく設定しなければ使えないというものでもない。あらかじめどのデータをどう見せるかを設計しておけば、ユーザーが見たい情報をインタラクティブに得ることができる。

SAS Visual Analyticsによる分析画面

「臨床試験には、症例報告書データ、治験手続き情報、進捗管理情報など多岐にわたるデータが発生します。これらのデータは、進捗管理だけでなく、個別症例のレビューやリスク管理、被験者の安全性監視、データの完全性の確認など、さまざまな目的で活用することができます。目的や対象に応じてデータを統合し、わかりやすく視覚化したことが大きなポイントです」(中島氏)

データの視覚化に取り組んだことで、リスクベースド・アプローチによる効率的な品質管理も可能になった。リスクベースド・アプローチとは、リスクが治験品質に与える影響度に応じて、予防措置や確認の程度を適切に変化させていく手法のこと。データを視覚化することで、リスクに応じた対策が取りやすくなり、品質改善のサイクルをまわしやすくなったという。