AWSを活用するさまざまなソリューションや事例を紹介する「AWS Summit Tokyo 2016」が、2016年6月1日から3日にかけて開催された。同カンファレンスで、千趣会 情報システム部 システム管理チームの池本修幸氏が「SI(ベンダー)依存からの脱却 千趣会が取り組むクラウドジャーニー」と題した講演を行った。本稿では、その内容をお届けしよう。
情報少ない中でベンダーに頼らないクラウド活用を決意
千趣会は大阪に本社を置く通信販売事業者で、主に女性向けのアパレル商品や雑貨などを扱うサービス「ベルメゾン」を展開している。冊子形状のカタログ通販からオンラインショッピングサイトを開設しての対応へと、1954年から事業を継続してきた企業だ。近年ではブライダル事業や保育園事業などにも展開している。
「われわれは現在、クラウドファーストを掲げ、社内のシステムをクラウド上で稼働させているほか、新たなシステムを構築する際はできる限りクラウドを利用するようにしています。しかし、クラウドファーストにいきなり切り替わったわけではなく、ゆっくりと歩を進めてきました」と池本氏は語る。
千趣会におけるクラウド利用は、2010年頃に始まったそうだ。最初は運用をアウトソーシングしているIBMのサービスを利用し、2011年にはメールサーバをGoogleAppsへ移行。その後も、社内システムは新規構築や保守切れ時にクラウドに乗り換えるという形をとり、2013年にはAWSの利用を開始してパブリッククラウドとプライベートクラウドを利用したハイブリッド環境を構築してきた。
「情報システム部には100名を超えるメンバーが在席していますが、約2割が社員で、他は協力会社からの常駐スタッフです。エンジニアはインフラ系と開発系で半々ですが、インフラ系は大半がアウトソース先のスタッフで、技術面ではアウトソース先に依存していました。そうした中でAWSを利用しようと考えると、多くのハードルがありました」と池本氏。
池本氏がハードルとして2点挙げた。1点目はAWSについて相談できる先がなかったということで、2012年当時は周辺も含めてAWSについて十分な知識を持っている人がいなかったという。もう1点目は、当時付き合いのあるベンダーもAWSの情報をあまり持っておらず、導入経験もなかったことだ。
こうしたハードルを乗り越えるために選択したのは、ベンダーに頼らない導入だった。まず、WebサイトからAWSに相談を行い、サービス概要を確認。加えて、有償トレーニング「Amazon Web Services 実践入門1」を受講して基礎を習得した後、Webサイトの情報や動画などでセルフトレーニングを行った。その後、契約に際して無料使用枠を活用して研修プログラムで学んだことを実践し、何ができるのかといった具体的な動きを確認したという。つまり、AWS側が公式に用意している窓口やプログラム、サービスを活用したわけだ。
「試行錯誤してみてわかったことは、AWSではできることが多く、どこから手をつけてよいのかがわかりづらいということでした。そのため、今までオンプレミスで経験したことのある領域からトライしました。わからないことはWebで調査し、実際に試してみる。それでもわからないことはAWSの担当やサポートに相談し、さらに試してみるという形で自分たちの中にノウハウを吸収してきたのです」と池本氏は語る。
こうしたトライ&エラーを繰り返した上で、DirectConnectを利用した専用線接続や、パブリッククラウドのリソースをVirectConnet+VPC接続でプライベート空間で利用する環境の構築を行った。さらに、本番系とテスト系でVPCを分けることで、本番稼働をにらんだ開発も行えるようにしたという。